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第2章
88話 お母さん、気付いて
しおりを挟む寝室に行った裕二がスミの携帯の電源を入れてみるとシュンからの着信が何十件も入っていた。
メールを開くとスミを心配する内容の文章が書かれていた。
この日、スミと夕食をとる約束をしていたシュンはスミがいないマンションで連絡を待っていた。
チッ…うぜーな
裕二はスミになりすましてシュンにメールを送った。
『シュンごめん。ちょっと1人で考えたい事があって九州に一人旅に来てます。落ち着いたら連絡します』
するとすぐにシュンから電話が入った。
長い着信が終わると裕二は引き続きメールを送った。
『ごめん。今話したくないので』
メールを見たシュンは意味がわからなかった。
どうしたんだ…スミ…
1人で考えたい事って何だよ…
シュンは返信しメールのやり取りをした。
『急にどうしちゃったんだよ。何かあった?』
『今は何も聞かないで』
『よくわかんないんだけど』
『ごめん』
『とにかく無事なんだな?』
『うん』
シュンは最後に『わかった』と一言だけ送信して家に帰った。
裕二はその後携帯の電源を切った。
翌朝、裕二はスーツに着替えスミを閉じ込めている部屋のドアを開けた。
「スミ!今から会社に行くから帰って来るまでそこで大人しくしてろ」
スミは黙って頷いた。
「昼過ぎに帰って来るからお前の実家に行くぞ」
「えっ…どうして…?」
「お義母さんに俺とやり直すって言うんだ」
「え…」
「俺の言う通りにするんだぞ」
「…そんな」
「俺に逆らったらどうなるかわかってるな⁈お前だけじゃなく地曽田にも迷惑かけてやる。俺は手段を選ばないからな‼︎」
「それだけはやめてっ…」
「じゃあ俺の言う通りにしろ。俺が帰って来たら出かける準備させるから待ってろ」
そう言って裕二は外から鍵をかけて出て行った。
スミは泣き崩れた。
シュンはお父さんの為に会社へ戻って頑張ってるのに迷惑はかけられない…
私がまた逆らったら裕二は何するかわからない…
昨夜、熱湯をかけられた事を思い出したスミはそう思っていた。
12時過ぎ、裕二が帰って来た。
「開けてやるから出て来て準備しろ」
スミはクローゼットに行き着替え始めた。
「ちゃんと化粧もしろよ」
準備が終わったスミは裕二の運転で実家に行った。
玄関の前に立つと裕二はスミに念押しした。
「わかってるな‼︎俺が言った通りに言えよ‼︎」
「…はい」
「もし下手なこと言ったら…どうなるかわかってるな?」
「はい…」
靴を脱ぎリビングに入るとスミの母は2人を見て驚きを隠せなかった。
「あ…あなたたち…どうしたの⁈なぜ2人が一緒なの⁈」
「突然すみません。座っていいですか?」
「えっ…ええ」
母親はスミのことをじっと見ているがスミは下を向いていた。
「あっ…コーヒーでいいかしら?」
「はい」
母親はコーヒーを淹れに行った。
「おいスミ、怪しまれるだろ‼︎普通にしてろ」
「、、、、、」
「おい!聞いてるのか⁈」
スミは黙って頷いた。
「はいどうぞ」
「いただきます」
「…いただきます」
「裕二さん仕事は?」
「午前中済ませて来ました。今日はお義母さんに話があって来ました。ねっスミ」
「…うん」
「何かしら?」
離婚が決まったのかしら…
母親はそう思っていた。
「スミから話してよ」
「、、、、、」
「ほらっ早く」
「言いにくい事なの?」
「私たち…私たち…」
「どうしたの?」
裕二は母親にバレないようにスミの太ももをつねった。
「やり直し…ます…」
「えっ?」
「離婚しないでやり直します」
お母さん…お願い…
言わされてる事に気付いて…
スミは母親の目をじっと見つめた。
「まっ、まぁ⁈本当に?あれだけ別れたがってたのに。急にどうして⁈」
「それは…」
「僕たち1日かけて話し合って決めたんです。お義父さんの事も含め話し合った結果別れない事にしました」
「本当なの?スミ…」
「…う…うん」
「でもあなた…地曽田さんのことが好きなんじゃ…」
スミが目で訴えていることに裕二は気付いた。
「僕たちが出逢った頃からの話をしていたら結局お互い気持ちは変わらなかったんです。スミも僕のこと愛してると言ってくれました」
「そ…そうなの?まぁ…そう決めたならよかったわ…」
「お義母さんにはご心配をおかけしてすみませんでした」
「じゃあ裕二さんはスミのこと許してくれるのね?」
「はい。これからは僕がスミを離しませんので安心して下さい」
「あ~これで私も悩まなくて済むわ。主人も安心してるでしょう。ねっスミ…」
スミは黙ったまま俯いていた。
「スミ?」
「あっ…スミは自分がしてきた事を反省してるんですよ。もういいから…スミ」
「そうなのね…」
「では夕方会議があるのでそろそろ帰ります。行こうスミ!」
「スミはもうちょっと居たら?」
「うん」
「いえ、このまま送ります」
「そう?じゃ2人仲良くするのよ」
「はいっ!お邪魔しました」
裕二はスミの手を握り部屋を出るが、スミは最後まで母親に目で訴えた。
だが…伝わらなかった。
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