56 / 102
第2章
56話 初めての弱音
しおりを挟む「初めまして。社長の秘書をしています。岸田と言います」
「初めまして。柳本スミと言います」
顔のアザを見られたくないスミは下ばかり見ていた。
秘書はスミのアザに気付き裕二に対して怒りが込み上げてきた。
「あの…僕、ある程度は知ってますので大丈夫ですよ」
「えっ…」
「小田病院の先生から聞きました。社長はまだ僕が知ってること知りませんけど」
「…そうでしたか」
「そこまで酷い事されて別れないんですか?」
「別れられるなら今すぐにでも別れたいです」
「もしまた何かされるのが怖くて別れられないのなら協力します」
「…色々あるんです。私の親のことも…」
「…そ、そうですか。すみません」
「いいえ」
「それと社長のことなんですが…」
「シュンがどうかしたんですか?」
「僕の口から詳しくは言えませんが経営が上手くいってなくて…信頼していた部下にも裏切られて社長は苦しんでます」
「えっ…全然気づきませんでした」
「スミさんの前では心配させたくないから元気なフリしてるんでしょう」
「そんな…」
「社長はそういう人です」
「、、、、」
「正直言うと、社長はスミさんと出逢って変わったと思います。僕は今の社長が好きです。社長には幸せになって欲しいから僕は応援します」
「岸田さん…」
「スミさん、社長は何も言わないですが会社の事や家の事でかなり辛いはずです。慰めてやって下さい」
「…はい。わかりました」
そう話すと秘書は帰って行った。
シュン…気づいてあげられなくてごめんね…
私は裕二のことだけなのにシュンは抱えている事が多いんだよね…
本当は苦しいのに私の為に…
スミはシュンを守りたいと強く思った。
翌日、シュンは朝から裕二に奪われた取引先全てに足を運んだ。
必死に説明したが相手にされなかった。
車で会社に戻っていると秘書からの電話が鳴った。
「社長、今どこですか?」
「会社の近くだけど」
「すぐ戻って来て下さい」
「どうした?」
「それが…営業部が…」
「えっ」
電話を切ったシュンは急いで会社に戻った。
社長室に入ると営業部の社員が3名立っていた。
「どうした?」
「それが…退職したいとの事です」
「退職⁈3人とも⁈」
「申し訳ございません。今日付けで辞めさて下さい」
「私もよろしくお願いします」
「僕も…すみません」
「そんな、急に困ります」
その時シュンは裕二の顔が浮かんだ。
「もしかして柳本グループに引き抜かれたんですか?」
「えっ…どうしてそれをっ」
「おい、君っ‼︎社長っ、違いますっ」
「…わかりました」
「今までお世話になりました…」
3人は一礼して出て行った。
「柳本グループ…社員まで!!」
「俺、行って来る」
「社長!今行って話しても一緒ですよ。柳本社長はきっと引き下がりませんよ」
「じゃあ、このまま黙って見てるのか⁈」
「何か対策があるはずです。柳本社長の弱みさえ掴めば…少し時間かかるかも知れませんが調べますので、社長は今出来る事をして下さい」
そう言うと秘書は出て行った。
シュンは裕二の弱みを掴むなど考えもしなかった。
その後は20時近くまで資料の整理をしていた為、別荘に着いたのは23時だった。
「ただいま」
「おかえり。遅くまでお疲れ様」
「スミ、髪切った?」
「あ…うん。自分で切ったんだ」
「えっ、自分で?」
「昔、美容師になりたくて学校に通った事があるから。結局美容師にはならなかったんだけど」
「へーっ、そうなんだ…俺の髪も切って」
「えっ…シュンの髪を⁈ちゃんと美容室でやってもらった方がいいよ」
「行く暇ないし、スミに切って欲しい。前髪と横を少しだけ。お願い!」
「…まぁ少しなら」
「じゃ、急いでシャワー浴びて来るね」
そう言ってシュンは浴室に行った。
シュン…笑ってたけど疲れてる感じだった…
スミは昨日秘書から話を聞いていたのでシュンのことが心配だった。
シュンの髪を切り終えるとそれぞれの部屋に行った。
シュンのことを慰められていないスミはベッドに入っても眠れず、思い切ってシュンの部屋に行った。
「シュン?起きてる?入っていい?」
「えっ…あ…うん…」
シュンはベッドで横になっていた。
「ど…どうしたの?」
「…ちょっと話ししない?」
「眠れないの?」
「…うん」
「わかった。何話そうか」
「…シュン?」
「ん?」
「無理してるでしょ」
「何を?」
「元気に振る舞ってるけど本当は…」
「…大丈夫だよ」
「私には気を遣わないで」
「え?」
「私はシュンに今まで自分をさらけ出してきたしシュンに助けてもらってばかりだった…」
「、、、、」
「だから今度は私がシュンを助けたい。だってシュン…本当は今すごく大変でしょ?辛いなら我慢しなくていいんだよ。せめて私の前では」
「…スミ」
「私の前では強がらなくていいから」
「、、、、」
「これだけ言いたかったの。じゃ…部屋に戻るね」
部屋を出ようとするとシュンがスミの手を掴んだ。
「えっ」
「本当は…」
「シュン」
「本当はすごく苦しいし怖いんだ」
シュン…
「どうしたらいいか…わからない」
初めて弱音を吐いたシュンをスミはそっと抱き寄せた。
「秘書から聞いた…会社上手くいってないんでしょ?」
「…うん」
「地曽田グループが…どうして」
「俺のせいなんだ…」
「自分を責めないで。会長は?解決してくれないの?」
裕二が絡んでいると知ったらスミは黙ってないと思いシュンは言えなかった。
「…会長には頼らない」
「…どうして?」
「会長に助け求めるって事は家に戻るって事になるから。それだけはしたくない」
「シュン…ねぇ1つ聞いていい?」
「何?」
「会社で何が起こってるの?」
「…それは」
「言えない事?」
「…大事な人達が居なくなっていってるんだ…取引先も…社員も…」
「え⁈ど、どうして⁈」
「、、、、」
シュンは黙ったままだった。
「も…もしかして私…関係してる?」
「え?」
「私のせいじゃ…?」
「スミは関係ないよ」
「、、、、」
「スミ…」
「…え」
「スミとこうしているとすごく落ち着く…」
「シュン…」
「離れたくない」
「え?」
「今日だけ一緒に寝たい…」
シュンが弱音を吐いて甘える姿を初めて見たスミはシュンをとても愛おしく感じた。
「うん…」
スミがベッドに入るとシュンは優しく抱きしめた。
「スミ…ありがとう」
「何が?」
「色々と…」
「私は居なくならないからね」
スミはシュンの腕の中で朝まで眠った。
3
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。

あなたが居なくなった後
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの専業主婦。
まだ生後1か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。
朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。
乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。
会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願う宏樹。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。


職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる