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第2章
55話 信じる気持ちの強さ
しおりを挟む2日後、秘書がシュンに報告をしていた。
新たに5社が地曽田グループとの取引きを止め、柳本グループと取引きしていた事が判明したのだ。
「一体どうなってるんだ‼︎」
「もしかしたらうちの情報が柳本グループに流れてるんじゃないでしょうか⁈」
「じゃ、うちの会社に居る誰かが情報流してるって事?」
「…はい」
「だとしたら柳本が金で雇ってるって事しか考えられない」
「でも何の為に…」
「柳本は俺を憎んでるから」
「社長を?どうしてですか?」
「…柳本の奥さんのこと好きになってしまったから」
「え…」
「今、俺家に帰ってないんだ。彼女と居る」
「…そうですか」
「呆れたでしょ」
「社長、今はとにかく会社のこと考えましょう」
「…うん」
「今から柳本グループに行って話して来ます」
「俺も行く」
2人は柳本グループに向かった。
社長室の前に着きドアをノックした。
「どうぞ」
2人が入ると裕二は一瞬驚くが直ぐに笑みをこぼした。
「これはこれは地曽田社長じゃないですか!突然どうされました?隣の方は?」
「秘書の岸田と言います」
「あ~秘書ね~」
「どうして来たかわかりますよね?」
「さぁ…どうしてですか?」
「とぼけるんじゃない‼︎取引先の事だ!」
「あ~っ、会議があるんだった。ちょっと待って下さいね~」
裕二は電話をかけ始めた。
誰かと話し終えた後しばらくして社長室に人が来た。
「失礼します」
シュンと秘書は目を疑った。
2人の姿を見たその人物は立ち止まって固まっている。
「せっ…専務…どうして…」
「黒川専務…⁈」
「うちで働いてるんですよ~ねっ、専務っ」
「、、、、、」
専務は顔を上げられなかった。
「…嘘だろ」
「あの…用件は…」
「あ~そうそう、私も直ぐ行きますから会議の準備してて下さい」
「…わかりました」
専務は逃げるように社長室を出て行った。
ショックを受けている2人を見て、裕二は内心笑いが止まらなかった。
「でっ、話の続きですが…何でしたっけ?」
「会議なんでしょ。また改めます」
「社長っ」
「行こう…」
2人は社長室を出た。
車に乗り込むとシュンは黙ったまま遠くを見ていた。
「社長…大丈夫ですか?」
「…うん」
裏切ったのが専務だとわかった2人はショックを隠しきれなかった。
会社に戻ったシュンは、専務のことを思い返していた。
まさか専務が…信じられない…
いつから裏切ってたんだ…
うちの情報をどうやって…
そういえば…専務より俺が先に帰ったあの日…
調べたい事があるって資料室に行ってた…
頭を抱えているシュンを見た秘書は夕方用事があるからと会社を早退し、再びシュンに黙って柳本グループに行った。
「今度はお一人でどうされたんですか?」
「もうこれ以上は止めて下さい!」
「何をですか?」
「うちの会社の物を奪わないで下さい!」
「そんな奪うなんて…そちらの会社よりうちの会社の方が魅力的なんですよ~」
「…一体どんな手を使って…」
「どんな手って…取引先にはただ本当の事をお伝えしているだけですよ」
「本当の事って…」
「私の妻とお宅の社長が不倫してるって事ですよ」
「そっ…そんな事を話してうちの取引先を奪ってるんですか⁈」
「ちゃんと教えてあげないとね~そんな会社より信用ある私の会社の方が安心でしょう」
「…正気ですか…」
「あなたもうちで働きません?地曽田グループにこのまま居ても潰れて行くだけですよ。私の秘書になってくれたら今の倍の給料払いますよ」
「そうやって専務のことも口説いたんですね…」
「え…」
「僕は今の会社辞めません」
「不倫するような社長ですよ。しかも私の妻と…あり得ないでしょ。そんな社長の下で働きたいんですか?」
「柳本社長は被害者のつもりですか?」
「なっ、何だと⁈」
「私…知ってますよ」
「え?」
秘書はスミが入院していた時、シュンの様子がおかしいと気づき後をつけて病院に行っていたのだ。
先生からも話を聞いてDVを受けた事も知った。
この時からシュンとスミのことは薄々気づいていたので、シュンから打ち明けられた時もそれほど驚かなかった。
「何を知ってるんだよ‼︎」
「奥さんにした事です」
「なっ、何⁈」
「女性に暴力を振るって衰弱するまで放置した本人がよく被害者づら出来ますよね」
「地曽田から聞いたのか⁈あいつ‼︎ペラペラ喋りやがって‼︎」
「いいえ、ある人から聞きました。社長はそんな事を話すような人じゃありません」
「よっぽどあいつのこと信用してるみたいだな」
「はい。だから何があろうと僕は社長について行きます」
「そうですか…まぁいい。取引先もそっちにとってダメージ喰らう所は全部奪った事だし、もう取引先はいいだろう…取引先はね…」
「まだ何かするつもりですか⁈」
「さぁね~」
「これ以上は許しません‼︎」
「せっかく雇ってやるって言ったのに…後悔するからな!」
「…失礼します」
秘書は力強くドアを閉め出て行った。
社長室を出ると専務が立っていた。
「黒川専務…」
専務は深く頭を下げた。
「本当に申し訳ない…本当に…」
「頭、上げて下さい」
「本当…最低な奴だよな」
「…ですね。社長を裏切るなんて」
「お前も知ってるのか?社長と柳本社長の奥さんの事…」
「はい」
「そうか…ショックだったよ、まさか社長が…いくら一線越えてないって言っても…」
「え?何もしてないって事ですか⁈」
「みたいだよ。社長らしいというか…」
「そ…そうですか。専務は辞めてこっちに来た事、後悔してないんですか?」
「…。情報流したの自分だし許される事じゃないから」
「僕もさっき給料倍払うからって誘われましたけど、断りました」
「、、、、」
「専務はお金に惹かれたんですね。ガッカリです」
「…それは」
「絶対、会社は潰しませんから‼︎」
「私が言うのも何だけどそうしてくれ。何とか持ち堪えるように頑張ってくれ」
「…もう2度と専務と話す事はないでしょう。それでは」
「…ああ」
秘書は苛立ちを抑え切れず帰って行った。
シュンのことが心配だった秘書はすでにスミが待つ別荘に行っているシュンに電話をかけた。
「お疲れ様です」
「お疲れ。どうした?」
「もう帰られてるんですよね?どこですか?」
「え…軽井沢だけど」
「か…軽井沢⁈そ…そうですか」
「何で?」
「あの…今からそっちに行っていいですか?」
「えっ⁈今から?」
「ちょっと話したい事があって…」
「いいけど、軽く2時間はかかるよ」
「大丈夫です。住所送って下さい」
「…わかった」
秘書は軽井沢に向かった。
「シュン?どうしたの?」
「今から秘書がこっちに来るみたい」
「今から?何かあったの?」
「話があるんだって」
「じゃ、来られたら私…2階に上がってるね。見られたらまずいでしょ」
「秘書にはスミの存在話してるよ」
「そうなの⁈」
「うん。だから居ていいよ」
「でも…まだ顔のアザ残ってるし見られたくないから2階に行ってる」
「あ…ごめん。そうだね」
21時過ぎ、秘書がやって来た。
「すごくいい別荘ですねー」
「遠かったでしょ。座って」
「はい」
秘書は辺りを見渡す。
「どうした?」
「彼女さんは…」
「あ…2階に居るよ」
「そうなんですね…」
「俺のことが心配で来たんでしょ?」
「えっ…あっ…は…はい」
「本当に驚いたよ。まさか専務がね」
「…はい」
「専務は俺のこと知って信用出来なくなって辞めたんだ。てっきり会長から聞いたと思ってたけど、柳本が話して引き抜いたんだな」
「うちの会社の情報を得る為に…」
「うん…」
「社長…」
「ん?」
「僕は裏切りませんから‼︎信じて下さいね」
「岸田秘書…ありがとう」
「ところで今、髪の毛伸ばしてるんですか?」
「何で?」
「最近、前髪下ろしてるから雰囲気が違います」
「ただ美容室に行ってないだけだよ。そういえば随分長いこと行ってないな…」
「何か…柔らかくなった感じでいいと思いますよ」
「えー、そうかな…それより今日は帰るの大変だろうからここに泊まって明日一緒に会社に行くか」
「大丈夫です。帰ります」
「遠慮しなくていいよ」
「朝早く起きないといけませんね。僕、朝弱いので…それより柳本社長の奥さんと少し話したいんですが…」
「スミと?」
「スミさんって言うんですね。少しだけでいいです。挨拶もしたいし」
「ちょっと待ってて。聞いてくるから」
シュンは2階に居るスミのところへ行った。
「もう帰られたの?」
「それが…スミに挨拶したいらしくて」
「えっ…」
「いい?無理しなくていいよ」
「…大丈夫。いいよ」
「じゃ、連れて来るね」
「わかった」
シュンは秘書を連れて2階に上がった。
「この部屋ですね」
「うん」
「社長は下に居て下さい」
「えっ、俺が居ちゃダメなの?」
「すみません」
「…わかったよ」
シュンは渋々下へ降りて行った。
コンコン…
「どうぞ」
秘書はスミの居る部屋に入って行った。
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