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第2章
52話 引き抜き
しおりを挟むこの日の夕方、裕二と由希はいつものホテルに来ていた。
部屋には入らずに1階のカフェで話していた。
「何もこんなとこで会わなくても…部屋に入ってお酒でも飲みながら話しましょうよ」
「そういう気分じゃないのよ。シュンが出て行ったのよ」
「じゃあ、これを聞いたらお酒が飲みたくなると思いますよ」
「そう言えば話したい事があるって言ってたわね。何なの⁈」
「ご主人は僕の妻と一緒に居ますよ」
「え…え⁈な…何で⁈あ、あなた家に奥さん居るって言ったじゃない‼︎」
「居るとは言ってませんよ。答えなかっただけです」
「そ…そんな…あの2人はどこ⁈今どこに居るのよ‼︎」
「わかりません。どこかのホテルでしょうね~」
「早く探し出さなきゃ!」
「ご主人にしばらく妻を貸すって言いました。妻は必ず僕のとこへ戻って来ますので」
「何てこと言ってくれたの⁈」
「実は僕、妻を殴りまくって監禁してたんです。鍵もかけて絶対に出られないようにしてたのに、あいつが出しやがって…」
「あいつって…シュンが?」
「結構衰弱してたはずだから怖くて直ぐには僕のとこへは戻らないと思うし」
「衰弱って…」
「俺を騙して箱根に行ったりしたから」
「いっそ…」
「はい?」
「いっそのこと奥さんを殺してしまえばよかったのに」
マ…マジか… 怖い女だ…
「まぁしばらくあの2人は放っといて僕たちも好き勝手にしましょう」
「…必ず戻って来るわよね」
「はい。それに僕いい考えがあるんです」
「何?」
「まだ実行してないし…実行したら話します。まぁ僕の行動を見てて下さい」
「何よそれ」
「その僕の行動によってご主人は由希さんを頼らざる負えないので必ず戻って来ます」
「本当に?」
「はい‼︎」
「…わかったわ。何だかお酒飲みたくなってきた」
「でしょ。行きましょ」
2人は部屋に入った。
翌日から裕二は部下に地曽田グループの社員を調べさせ、徐々に行動し始めた。
シュンは朝6時には別荘を出て会社に行った。
「社長、おはようございます」
「おはよう。どうかした?」
「それが…」
秘書は言いづらそうにしている。
「何?」
「AP社とQIグループとの取引きがなくなりました」
「え?2社とも?どうして⁈」
「理由を教えてくれないんです」
「何も問題はなかったはずだし、2社同時になんておかしい…」
「私もそう思います。調べてみます」
「うん」
秘書が出て行った後シュンはAP社に電話をかけた。
「はい、AP社でございます」
「地曽田グループの地曽田ですが、社長はいますか?」
「地曽田社長、お世話になります。社長に繋ぎますので少々お待ち下さい」
しばらく待たされまた同じ女性が対応した。
「申し訳ありません。社長は外出中でした」
「そうですか。電話があった事だけ伝えて下さい」
「は、はい。わかりました」
シュンは居留守だと気づき、続けてQIグループに電話をかけた。
「はい、QIグループです」
「地…グループですが社長いますか?」
「はい、少々お待ち下さい」
わざと自分の会社名を小さな声で言った。
「もしもし?」
「岩田社長、地曽田です」
「えっ…?ち…地曽田社長…」
「はい。お世話になります」
「あっ…ああ」
「ちょっと聞きたい事がありまして」
「すっ…すまん。もうすぐ大事な会議があるから…」
そう言って電話を切られた。
2社とも完全に避けてるな…
明らかにおかしい…
その頃裕二は地曽田グループの専務を会社に呼んでいた。
裕二の部下が地曽田グループの内部事情に詳しい専務に連絡をしていたのだ。
「社長、来られました」
「どうぞ」
「失礼します」
「まぁ、お掛け下さい」
「あ…はい」
「突然お呼びしてすみませんね」
「はい。柳本グループの社長が私に何か?」
「まぁ、コーヒーでも飲んで下さい」
「頂きます。あまり時間がありませんので…会社に早く戻らないと」
「そうですか。それではこれを」
裕二は専務の前に紙袋を置いた。
「これは?」
「中、見てみて下さい」
専務が紙袋の中を確認すると札束が入っていた。
「えっ⁈なっ、何ですか⁈」
「あなたを地曽田グループから引き抜きたいんです。その前にやって欲しい事がありまして」
「どういう事ですか⁈引き抜く?私は地曽田グループを辞めるつもりはありません」
専務は席を立った。
「そちらの社長を信頼してるからですか?それとも会社が大事だからですか?」
「どちらもです!」
「じゃ…これを見ても?」
裕二はシュンとスミがホテルで会っている写真を専務に見せた。
会長の前では削除したが、別に保存していたのだ。
「社長…え?この女性は社長の奥様じゃない…」
「僕の妻ですよ」
「柳本社長の⁈いったいどういう事ですか⁈」
専務は再びソファーに座った。
「僕の妻と地曽田社長は不倫してるんですよ。今も2人とも家を出て一緒に居るんです」
「そっ、そんな…社長が…信じられない‼︎」
「僕の妻だと知っておきながらですよ。そんな人の事が信頼できますか?平気で家族を騙すような人なんですよ。もしかしたら社員にだって…」
専務は黙って険しい表情をしていた。
「AP社とQIグループもそちらの会社との取引きを中止して、うちと取引きする事になったんですよ」
「そちらと⁈」
「やっぱりこの業界は信用信頼が大事ですからね~。地曽田グループが落ちていく前に専務もうちに来たらいいですよ」
「…しかし」
「今貰ってる給料の倍、払いますよ」
「ば、倍⁈」
「かなり仕事が出来る専務さんみたいだし、その位は当然ですよ‼︎その前に…こちらに来る前にやって欲しい事がありますけど」
「何…ですか…?」
「地曽田グループが今持っている物件全てと取引先全部の資料が欲しいんです」
「え⁈そ…それは…」
「専務は社長から信用されてるでしょうし難しい事ではないでしょ?」
「…でも、それを手に入れてどうするんですか?」
「そりゃあ手に入れられる物は全部奪うんですよ」
「…そんな」
「どうせ地曽田グループはこの先落ちていくのは確実ですよ。そんな会社に残るよりうちに来た方が専務の為ですよ」
「、、、、」
「資料を持って来てくれたらその場ですぐに採用しますからご安心を」
「、、、、」
「もしかして迷ってるんですか?地曽田社長みたいに平気で人を裏切るような人の下でまだ一緒に働きたいんですか?それより真面目な僕の会社で倍の給料もらって、これから大きくなる会社で働いた方が断然いいと思いますけど。それに資料もタダでは頼みません。このお金差し上げますので」
「…いつまでに資料持って来れば…いいですか?」
「って事は…やってくれるんですね!さすが専務!」
「本当に…雇ってくれるんですね?」
「もちろん‼︎資料は早ければ早い方がいいですけど…そうだなぁ~1週間以内で」
「…わかりました」
「それとこの事は秘密ですよ」
「当然です!こんな事やっちゃいけない事だし…」
「会長にもですよ!さっき見せた写真の事も、僕の会社に来る事も言わない方がいいと思います」
「会長にもとても言えません」
「ですよね~。裏切る形になるからですね~」
「…はい」
安心した裕二は専務にお金が入った紙袋を渡し、受け取った専務は部屋を出て行った。
この日の夜、裕二は家でウイスキーを飲みながら色々と考えていた。
あいつは取引先が次々に減っていったらおかしいと思って色々と調べるだろう…
俺の会社が横取りしたって知ったら黙っていないはず…
仕返ししてくるだろう…
でも柳本グループは、実はスミの親が立ち上げた会社だと知ったら何も出来ないはず…
フフッ、あいつショック受けるだろうな~
そうなるとあいつは会長と由希さんの助けが必要になるから家に戻るしかない…
スミも1人じゃ何も出来ないし俺のとこに戻って来る…
俺の勝ちだ‼︎ざまぁみろ!
これから見てろよ、地曽田…
裕二は笑いが止まらなかった。
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