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第1章
28話 友達
しおりを挟む「スミさん…」
「あっ…私、行きますね」
「はっ、はい…」
2人は我に返り恥ずかしくなった。
「ちょっと待って下さい」
「え?」
「家に帰りたくなければ明日も…いや、しばらくホテルに居ていいですよ」
「でもそれは…」
「お金だって持って来てないでしょ?」
「あ…そうだった…」
「カードばかりで今あまり現金持ってないから少ないけど、これ使って下さい」
シュンは手持ちの現金1万円をスミに渡した。
「すみません。必ずお返しします」
「そんな…いいですよ」
「じ…じゃあ、行きますね」
「はい」
スミはホテルの中へ入って行った。
気持ちを言ってしまったものの、どうしようも出来ないもどかしさでシュンはしばらく車の中にいた。
ホテルの部屋に入ったスミはシュンのことで頭がいっぱいだった。
今まで色々とシュンさんに話を聞いてもらったり何度も会ってるうちに、私の気持ちはシュンさんに向いていたんだ…
ただお互いの立場もあるから抑えてただけなんだ…
でも、お互い同じ気持ちでもどうしようも出来ない…
私はいいとしても、シュンさんには奥さんがいる…
スミがふと携帯を見ると裕二から着信が何回も入っていた。
ちょうど裕二からまた着信が入り、スミは電源を切った。
もう裕二とはムリ…
はっきりさせよう…
翌日、スミはどこにも出掛けずホテルの部屋にこもっていた。
19時過ぎにチャイムが鳴りドアを開けると、両手に紙袋を下げたシュンが立っていた。
「シュンさん」
「携帯鳴らしても繋がらなかったから。電源切ってるんでしょ?」
「あっ、はい…すみません」
「これだけ渡したくて」
「これは?」
「服です。とりあえず着る服いるでしょ?」
「ありがとうございます。助かります」
「じゃ」
「えっ、もう行くんですか?」
「え?」
「シュンさんさえ良ければ…少し一緒に居たいんですが…」
「スミさん…」
シュンは部屋の中へ入り2人はソファーに座った。
するとスミのお腹が鳴り、2人で笑い合った。
「今日、何か食べました?」
「…いいえ」
「え?ルームサービス頼んでよかったのに」
シュンはフロントに電話し料理を頼んだ。
「従業員が料理を運んで来たら、僕は隠れますので」
「あ、はい。顔知られてるから…ですね」
「…はい」
20分後、料理が運ばれ2人で食事をした。
「お腹は満たされました?」
「はい!」
「よかった」
お互いに見つめ合うと昨夜の事を思い出し、慌てて顔をそらした。
しばらく沈黙が続いた。
「そのトレーナー似合ってますね」
「あっ、洗って返しますね」
「いつでもいいですよ」
「シュンさん…私」
「え?」
「明日帰ります」
「大丈夫ですか?」
「はい。ちゃんと主人と話します」
「そうですか」
「ありがとうございました」
「何が…ですか?」
「昨日から色々助けてくれて。そしてあの日、来ない私をずっと待っていてくれて…」
「…後悔してません」
「え?」
「昨夜、スミさんに気持ち伝えたこと」
「…私もです。すごく嬉しかったです」
「…僕も嬉しかったです」
「でも…私の家庭は壊れてますがシュンさんのとこは壊れて欲しくないので、シュンさんへの気持ちは心の中に閉じ込めておきます」
シュンは何も言えなかった。
「私たち、友達になりませんか?」
「、、、、」
「先がない恋愛より、友達の方がよくないですか?」
「そうですね」
会えなくなるくらいなら友達でもいいとスミは思っていた。
「じゃあこれから…」
「これから?」
「敬語で話すのやめません?」
「…いいですよ」
「じゃあ、今日から友達として…よろしく」
「よろしく」
2人は握手をした。
「じゃ、そろそろ帰りま…帰るね」
「うん」
「もし明日家に帰ってまた何かあったらすぐに連絡して。友達として…心配だから」
「わかった」
シュンは部屋を出た。
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