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第1章
21話 誰かの為の嘘
しおりを挟む翌日お昼過ぎ、スミが仕事をしていると店の方に歩いて来る裕二の姿が見えて思わずしゃがみ込んだ。
「スミちゃん?どうした⁈」
「店長すみませんっ」
隠れたスミは謝ることしか出来なかった。
「え?どうしたの?」
その時、裕二が店に入って来た。
「いらっしゃいませ」
裕二は店の中を見渡す。
「あの、柳本スミの夫ですが妻は今どこに?」
「…え」
「こちらで働いてますよね?」
裕二の高慢な態度から店長は何となく察した。
「柳本さんは辞められましたよ」
「辞めた?」
「今朝来られて辞められました。よく頑張ってくれてたのに残念です」
辞めたと聞いた裕二はニヤつきながら店を出て行った。
「スミちゃん、もう大丈夫だよ」
「店長…ありがとうございます」
「あれで良かった?」
「はい。助かりました。でもどうして…」
「急にスミちゃん隠れるし、ご主人見てたら何となくそう思っただけだよ」
「本当にありがとうございました」
「さぁ、仕事仕事~」
「はいっ」
店長はそれ以上、詳しく聞かなかった。
店を出た裕二は地曽田グループに向かって歩いていた。
その時シュンが店の方へ歩いて来ていた。
気付いた裕二はシュンの所へ行った。
「コーヒーショップに行くんですか?」
「柳本社長…」
「スミはコーヒーショップ辞めましたよ」
「え…」
「ちょうど良かった。今から地曽田社長に会いに行こうと思ってたんです」
「…何か?」
「昨日見ちゃったんですよ。スミと地曽田社長が車でどこかに行ってるとこ」
え⁈
「スミは送ってもらったって言ってたけど帰って来たのが遅かったから、どこか行ってたんですよね?」
「…すみません」
「え?どうして謝るんですか?」
「送って行くだけのつもりでしたが、お腹が空いてて食事だけ付き合ってもらいました」
「どこで⁈」
「この近くの繁華街です。スミさんは帰りたがってたのに僕が無理言って…すみません」
「そうですか。でも人妻と2人で食事するなんてどうかと思いますけど。しかも俺の妻って知ってながら…」
「…そうですね」
シュンは苛立ちを抑えていた。
「スミから聞いたんですけど、ご近所さんなんですって?」
「はい」
「でもスミはバイトも辞めたし、もう送る必要ないですから。大体パーティーで1度挨拶した程度なのに、今度はコーヒーショップで会って家が近いからって送る必要あります?人妻を食事にまで連れ回して‼︎」
「…そうですね。それより、お宅の会社の事で聞きたいことがあったんですが今日はやめておきます。話済んだならもう行きますね」
「コーヒーショップに行くんですか?スミは居ませんよ」
「コーヒー飲む為に行ってるだけですので」
そう言ってシュンはコーヒーショップに行った。
裕二はシュンのことは気に食わなかったがスミがバイトを辞めたと聞き、安心して会社に戻った。
シュンが店に入るとスミの姿が目に入った。
「スミさん⁈え、どうして」
「いらっしゃいませ。どうしました?」
「ついさっき外でご主人と会って、スミさんバイト辞めたって言ってましたが…」
「あっっ」
スミは店内では話しづらいのもあり、店長に許可をもらってシュンを店の裏に連れて行った。
「主人から何か言われませんでした?」
「昨日の事を聞かれました。見られてたんですね。すみません」
「やっぱり…私の方こそすみません。主人にはバイト先教えてなかったのに…帰りが遅かったからどこに行ってたのか聞かれたけど、あのお店のこと知られたくなかったので答えなかったんです」
「大丈夫ですよ。この近くの店に食事しに行ったって嘘ついちゃいました」
「すみませんっ」
シュンはスミの手首に目がいった。
「そのアザ…どうしたんですか⁈」
スミは慌てて袖を伸ばし隠した。
「ちょっと見せて」
シュンはスミの袖をめくり手首を見た。
「もしかして…ご主人ですか?」
「ちょっと昨日言い合いになって、手首掴まれただけですがアザになっちゃいました。私すぐアザになりやすいので…」
「…だからって…よっぽど強く掴まれたんじゃ?」
「いや、本当に軽くですよ」
「でも女性にこんな…」
「シュンさん?」
「え?」
「主人は私がバイト辞めたって言ってたんでしょ?」
「…はい」
「実はさっき主人が店に来てるのが見えて、私とっさに隠れてしまって。そしたら店長が主人に辞めたって言ってくれたんです」
「そうだったんですか。え、じゃあご主人が辞めたって思ってるだけで、本当は辞めてないんですよね?」
「はい。ずっとここで働きます。このお店好きだし辞めたくない」
「スミさん…」
「何かすみません…」
「謝るのはこっちです。僕のせいで手首にアザまで…」
「シュンさんのせいじゃないです」
「もし何かあったらいつでも言って下さい」
「ありがとうございます」
「僕の携帯番号わかりますよね?」
「はい。この前もらったメモ持ってます!」
「じゃ、そろそろ戻りますね」
「はい」
スミが店に入るのを見届けて、シュンは会社に戻った。
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