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第1章
15話 惹かれ合う2人
しおりを挟む「スミさん?」
「シュンさんっ」
「どうしてここに?バスを待ってるんですか?」
「はい」
「乗って。送りますよ」
シュンは助手席のドアを開けた。
「は、はい」
スミを助手席に乗せると車を走らせた。
「ありがとうございます」
「アハハ…よく会いますね。だけどどうしてあそこに居たんですか?」
「バイトです。今日からですけど」
「バイト⁈あの辺で⁈」
「はい。コーヒーショップですが」
「え…そこのコーヒーショップ?」
「そうです」
「へぇー」
「シュンさんは今帰りですか?」
「はい。うちの会社、そこなんで」
「え⁈」
スミは後ろを振り向いて窓の外を見ると、地曽田グループと大きく書いてあるビルがあった。
「ま、まさか!バイト先のすぐ近く!」
「ですね…アハハハ」
「うわー知らなかった…」
「でも何で急にバイトなんか…」
「それは…家に居たくないのもあるし、自立しなきゃと思って…」
「自立?」
「これから何があるか分からないし…私、働いた事がないから社会勉強の為にも働こうと思って」
「そうですか。生活に困っている訳でもないのに偉いですね」
「そんなっ、偉くなんかないですよ。今まで主人にばかり頼って来たし…何も出来ない情けない女です」
「そんな事ないです!あまり自分のこと悪く言わないで」
「シュンさん…」
「スミさん、真っ直ぐ帰りたいですか?」
「…いいえ」
「じゃ、ちょっと寄り道しましょっか」
「え?」
シュンは車をUターンし走り出した。
「どこ行くんですか?」
「映画、観ません?」
「映画?」
「車に乗ったまま映画観れるとこがありますから」
「あ、ドライブインシアターですね!一度行ってみたかったんです」
「よかった。もうすぐそこなので」
「はい」
着くとたくさんの車が停まっていた。
「結構、多いですね」
「ですね。この辺に停めますね」
「はい」
「少しシート倒しますか?」
「はい。えっと…倒すとこは…」
「あ…この辺にあります」
シュンがスミの座っているシートのドア側に体を寄せてボタンを押そうとすると、スミの顔がすぐ近くで目が合い、シュンは慌てて離れた。
「す、すみません。そこ押すと倒れますので」
「はっ、はい」
2人とも心臓がバクバクしていた。
「そうだ、何か飲み物買って来ますね」
「わ、わかりました」
びっくりした~あんなに顔が近づいて…
でも何?このドキドキは…
しばらくしてシュンが戻って来た。
「コーヒーでいいですか?」
「はい。ありがとうございます」
映画が始まった。
オープニングからラブシーンだ。
え…もしかして過激な内容…?
気まずい…
2人は同じことを考えていた。
「ス、スミさん?寒くないですか?」
「だ、大丈夫です…」
「移動…しますか?」
「ハハ…大丈夫ですよ」
「あ…はい」
しばらく観ていると、なかなか面白い内容で2人ともハマって最後まで観た。
「面白かったですね‼︎」
「そうですね」
「あ~、ハッピーエンドで終わってよかったぁ~」
「少しは嫌なこと忘れられました?」
「え?」
「何かあったんでしょ?」
「どうしてですか?」
「バイト始めるし、真っ直ぐ帰りたくなかったみたいだし」
「…はい」
「…そうですか」
「シュンさんは何があったか聞かないですよね」
「それは…言って思い出したくないでしょ?」
「優しいですね。主人とは大違い…」
「え?」
「うちの主人…自分の秘書と不倫してました」
「え?秘書と?ま…まさか」
「2人がキスしてるとこ見てしまったんです」
「…え」
「びっくりでしょ。いつから不倫してたか知らないけど、まさか相手が秘書だったなんて…」
シュンは苛立ちを隠せなかった。
「主人と顔合わせるのも嫌だし、汚らわしくて…」
「ご主人に話さないんですか?」
「話しても、きっとシラを切ると思います。あの時写真でも撮ればよかったけど、それどころじゃなくて…証拠を見つけ次第話して、何も言えない様にしないと」
「…何でこんないい奥さんを裏切るんだ…」
「え?」
「ご主人を殴ってやりたい気分です」
シュンさん…
私の為に怒っている…
「家に居て、耐えられそうですか?」
「自信はないけど…頑張ります…」
するとシュンは紙切れに何か書き出した。
「これ、僕の携帯番号。もし何かあったら電話下さい」
「え…」
「本当はこういう事はダメなんだろうけど何か放っとけないんです」
「シュンさん…」
シュンさんは優しいから、きっと困ってる人いたら放っとけない人なんだ…
私が足痛めてた時もそうだったし…
「わかりました。ありがとうございます」
その時、シュンの携帯に着信があったが、シュンは発信者の名前を見て出なかった。
「出なくていいんですか?」
「はい…」
「あの…さっきも何回か電話かかってましたよね?もしかして奥さんじゃないんですか?」
「…はい」
「シュンさんは奥さんと上手くいっているんですよね?」
「ハハ…どうですかね」
スミはこれ以上はあまり聞いちゃいけない感じがした。
「もう22時過ぎたし、どうします?帰りますか?」
「そうですね」
そして2人は帰ることにした。
翌日から毎日にようにスミが働くコーヒーショップにシュンがコーヒーを買いに来るようになった。
2人は毎日顔を合わせる度に、いつの間にかお互いが気になる存在になっていた。
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