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第1章
11話 今までで1番孤独で温かい誕生日
しおりを挟む翌朝、スミは朝食も作らずベッドから出なかった。
「スミ、体調でも悪いの?俺もう行くよ」
スミは裕二の顔を見ずに頷いた。
「あっ‼︎それと今日は取引先と会って飲みに行くと思う。遅くなるから」
そう言って裕二は家を出た。
女と会うくせに‼︎嘘ついて…
今までのことは全部嘘ついてたのね…
スミは何もする気が起きず、夕方までベッドに入っていた。
今日は2月20日…私今日、誕生日なんだ…
なのに…なのに…
20時になり、スミはいつものコンビニへ行き外でビールを飲んでいた。
そこに酔っ払った中年の男性がスミの所へ寄って来た。
なっ、何この人…
「姉ちゃん、こんな所で1人で飲んでるのか?」
「…はい」
「もっといい所で俺と一緒に飲もうぜー」
「…遠慮しときます」
「いいだろ。おぉ!姉ちゃんスタイルいいね~行こうよ。2人っきりで飲めるとこに」
男はスミの肩に手を回し連れて行こうとする。
「やめて下さいっ‼︎」
「いいから黙ってついて来なっ」
「いやっ、離して下さいっ‼︎」
すると後ろから誰かが、スミから男を離した。
「何だ‼︎」
「嫌がってるでしょ」
シュンだった。
「あっ…」
「誰だテメェ‼︎邪魔すんなっ」
男はシュンに殴りかかろとすると、シュンは男の腕を掴んだ。
「うっ…」
「俺の女だ。やめろ」
「そ、そうだったんですね。すみませんでした」
男は走って逃げて行った。
「大丈夫ですか?」
「はい…ありがとうございました。でもどうして…」
「ちょうど車で通ってたら見かけたので」
「そうでしたか…助かりました」
「あっ…さっき俺の女とか言ってすみませんでした」
「いいですよ。ハハ…」
「そんな格好で1人で飲んでたら、また声かけられますよっ」
「え…?」
あ…ちょっとスカート短か過ぎたかな…
「僕も一緒に飲んでいいですか?」
「でも車じゃ?」
「家に置いて来ます。すぐ戻って来ますのでここに居て下さい」
「わかりました」
シュンは車に戻り、家に向かって行った。
スミはビールが無くなり、自分とシュンの分2本買いにコンビニに入った。
10分後、シュンが息を切らしながら戻って来た。
「走って来たんですか?」
「はっ、はいっ」
「アハハ」
「どうしました?」
「いいえ…あ、ビールどうぞ」
「買ってくれたんですか?ありがとうございます」
喉が渇いていたシュンは勢いよく飲んだ。
「あの…ちょっと聞いていいですか?」
「何ですか?」
「こんなとこで飲んで楽しいですか?」
「え⁈そ、そうですね…でもそれを言うならスミさんだって」
「楽しいっていうか落ち着くんです。嫌なことがあった時、ここで飲むと自然に落ち着いてくるんです」
「じゃあ…この前も今日も、嫌なことがあったんですね…」
「…そうですね。ハハ…」
シュンは何も聞かず黙っていた。
「…こんな日に1人だなんて」
「こんな日?」
「私…今日、誕生日なんです」
「え‼︎そうなんですか⁈」
「なのに…裕二は…」
裕二の事を考えると辛くなり、スミは下を向いた。
「スミさん…」
「あ、何かすみません」
「スミさん、これから予定あります?」
「え?特に何も…」
「じゃ、ちょっとついて来て下さい」
シュンはスミを連れて10分ほど歩き、入り込んだ場所にあるお洒落な雰囲気のお店の前で止まった。
「ここは?」
「飲み直しましょう。実は外、寒かったんです。中で飲み直しましょう。ご馳走します」
「え…はっ、はい…」
シュンはスミの手を引き中へ入った。
感じの良い店内だった。
シュンは店長らしき人の所へ行き、しばらくしてスミの所へ戻って来た。
「どうしたんですか?」
「注文してきました」
「え?わざわざ言いに行ったんですね」
「はい」
2人のテーブルにシャンパンと料理が運ばれてきた。
「シャンパンですか⁈」
「はい。乾杯しましょ」
「はい。乾杯」
「乾杯!お誕生日おめでとうございます!」
え…だから…シャンパン…
「あ…ありがとうございます」
「適当に頼んだから食べて下さいね」
「はい!家の近くにこんないいお店があったなんて知らなかったです。社長さんはよく来られるんですか?」
「前に1回だけ来たことあります。また行きたいと思って、行かずのままでした」
「近いし、奥さんと来たらいいじゃないですか」
「妻はこういう所、好きじゃないから」
「…そうなんですね」
「あの…気になってたんですけど…」
「え?」
「僕のこと社長さんって呼ぶのはやめません?」
「あっ、すみません。嫌ですか?」
「は、はい…ちょっと…下の名前でいいですよ。シュンで」
「シュンさん?」
「はい。僕もスミさんって下の名前で呼んでるし」
「わかりました」
そして2人が飲みながら食事をしていると店内が真っ暗になった。
「えっ、停電⁈」
すると音楽が流れ出し、奥から店員がローソクを刺したケーキを持ってスミの前に置いた。
えっ…こっ、これって…
「お誕生日おめでとうございまーす‼︎」
「火、消して下さい」
「は、はい」
スミがローソクの火を吹き消すとお店の中が再び明るくなり、他のお客さんからの拍手が鳴り響いた。
「スミさん、改めて…おめでとうございます」
「…ありがとうございます」
お店に入って早々シュンが店長の所に何か言いに行ってたことを思い出した。
この為にシュンさん、お願いしに行ってたんだ…
スミは久しぶりにこんなに祝ってもらって嬉しくなり、気付いたら涙が出ていた。
「ス、スミさん?どうしました⁈」
「…嬉しくて」
「スミさん…あっ、ワイン飲みましょうか。赤ワイン、ケーキに合うんですよ」
「…はい」
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