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第1章
5話 出会い
しおりを挟む会場に戻った裕二は椅子に座っているスミの所へ行った。
「どうした?」
「ちょっと…足が痛くて」
「ヒールのせいだろ。帰りはタクシーで帰れ。俺は急用が出来たから先に出るから」
「えっ、急用って?じゃ私も出るよ」
「お前はもう少し居ろ。せっかくだから夕飯の代わりにここで色々食べるといいよ。じゃあな」
「ちょっ、ちょっと‼︎待ってよ!痛っ…」
スミは立ち上がる事が出来なかった。
そんな…ひどい…
心配もせずにさっさと行ってしまうなんて…
悔しくて涙が出てきた。
そんなスミの姿を遠くからシュンは見ていた。
結局、最後までスミは椅子に座ったままでいた。
会長の締めの挨拶が終わると、スミは壁に手をつきながらやっとの思いで会場を後にした。
だが、タクシーなんてどこにもいない。
スミはヒールを脱ぎ、足を引きずりながら歩いていた。
その頃まだ会場にいた地曽田一家は、自宅で打ち上げをする話をしていた。
「じゃあ行こうか」
「ごめん、ちょっと先に帰ってて。仕事の用事思い出した」
「えっ、私は?」
「由希ごめん、会長と一緒に帰って。すぐに戻るから」
「わかった。じゃあ家で待ってる」
「うん」
スミのことが気になったシュンは、車に乗りスミを探しに行った。
スミは足の痛みが限界にきて、道端に座り込んでしまった。
もう、タクシーなんていないじゃない‼︎
どうしたらいいのよっ!
急用って何なのよっ!
するとスミの前に車が停まり、中から人が出てきて手を差し伸べてきた。
シュンだった。
「大丈夫ですか⁈」
「えっ」
「とりあえず乗って下さい。送りますよ」
「でも…」
「立てます?」
スミは立ち上がろうとするが立てなかった。
シュンはスミを抱え、車に乗せた。
「す、すみません」
「ちょっと見せて下さい」
スミの足元を見るとマメが潰れて血が出ていた。
「ひどいな…ちょっと待ってて下さい」
ダッシュボードから絆創膏を取り出し貼ってくれた。
「あっ、ありがとうございます」
「家はどこですか?」
「え、でも…いいんですか?」
「その足でどうやって帰るんですか?タクシーもこの辺じゃ捕まりませんよ」
「…◯◯町です」
「◯◯町⁈わ、わかりました」
シュンは車を走らせた。
裕二と一緒に居ないのに変に思わないなかな…
何も聞かないけど…
それにしても裕二とは正反対の社長だな…
「寒くないですか?」
「大丈夫です」
「食事は出来ました?」
「えっ、はっ、はい」
「本当ですかぁ?そうは見えなかったけど」
「えっ?」
「ちょっと待ってて下さい」
シュンはそう言うと車を停め、どこかに行った。
どこに行ったんだろ…
それにしても、すごく気を遣ってくれる人だな…
10分後、シュンが戻って来た。
「お待たせしました。はいっ」
「え…これ…」
出来立てのハンバーガーを渡した。
「どうぞ。飲み物はここに置きますね」
「どうしてここまで…」
「お腹空いてそうだったから。それに僕もあまり食べてないので、お腹空いたから。ハハ…」
そう言ってシュンはハンバーガーにかぶりついた。
スミは思わず笑ってしまった。
「ど、どうしました?」
「い、いえ…いただきます」
この人…すごくいい人だ…
スミは久しぶりに笑った。
するとシュンの携帯が鳴った。
「もしもし」
「シュン?まだ帰って来ないの⁈」
「あ、ごめん。もうちょっとかかるから先に始めてて」
「もうちょっとってどの位なのよ!」
「そんな遅くならないから」
そう言って電話を切った。
「奥さんですか?」
「…はい」
「すみませんっ、予定あるんですよね?急いで帰って下さい!私はここで降りますから」
「ここでって…その足じゃ無理でしょ」
「タクシーで帰ります」
「いいですよ。送ります」
車を走らせた。
「何か…すみません」
「アハハ。すみませんが多いですね」
「すみません…あっっ」
「ハハハ。スミさんって面白いですね」
スミさん…名前覚えててくれたんだ…
「奥さんって、すごくきれいな方ですね」
「…お金かけてますからね。そのままでいいのに。スミさんはご主人のどこが好きですか?」
「え…そ、そうですね…優しいとこ…かな」
「…そうですか」
本当は優しくなんかない…
昔は優しかった…
けど今は…
「◯◯町着きましたけど、どの辺ですか?」
「あっ、そこを右に曲がったとこです」
「はーい」
「あっ、ここです。ありがとうございました!」
「ここなんですね」
「はい。今日は本当に助かりました。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「じ、じゃあ…」
「スミさん!」
「え?」
「気持ちを強く持って下さい」
「…?」
「頑張って!」
「…は…はい」
そう言ってシュンは帰って行った。
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