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54話 生きたい
しおりを挟む3人は食卓を囲む。
「今日、マネージャーさんと打ち合わせだったの?」
「…うん」
「マネージャーさんも今度、家に呼ぼうよ」
「そうだね…」
「来週、私の実家に行くの金曜日で大丈夫?」
「…もしかしたら急な仕事が入るかも知れない。来週には分かるから」
「そうなの?わかった…」
「パパ、なんだか元気ないよー」
「えっ?そうかなー。元気だよ」
「パパはお仕事だったから疲れてるのよ」
ジスンはおかずをチスンのお皿に入れてあげた。
「…ありがとう」
無理だ…
ジスンとクミとずっと一緒にいたい…
2人を残して逝けない…
子供も生まれてくるのに…
まだ死にたくない…
翌日チスンは部屋にこもり、病気のことを調べた。
先生の言う通りだ…
治療しても記憶がなくなる確率99%…
死亡率1年未満で99%…
抗がん剤で長くて1年…
いずれも病体が4個以上の場合…
手術不可能…
チスンはアメリカにいる知り合いの医者に電話をし、出掛ける準備をして部屋を出た。
「出掛けるの?」
「うん…ちょっと事務所に行って来る」
チスンは事務所に行くと、誰もいない部屋にマネージャーを呼んだ。
「チスンさん、何か話しでも?」
「うん…今から話すこと、絶対誰にも言わないで」
「はい…」
「俺…あまり長くないみたいなんだ…」
「え?長くないとは?」
「…ガンで余命宣告された…」
「…え?うっ、嘘でしょ?」
「本当だよ」
「よ、余命宣告って…え⁈手術は…で、出来ないんですか⁈」
マネージャーはショックで声が震える。
「手術は難しいみたい…」
「そ、そんな…どこにガンがあるんですか⁈」
「脳だよ」
「…え」
マネージャーは更にショックを受ける。
「…生きたいんだ」
「チスンさん…」
「俺1人ならいいけど…クミとジスン、それにこれから生まれてくる子供もいるのに。やっと幸せになれたのに、死にたくない…」
「…死なせません!!」
するとマネージャーはどこかに電話をかけた。
しばらく話し、電話を切った。
「顔が広い知り合いの医者に電話しました。手術してくれる病院を見つけてくれるはずです。診断書など必要なので準備しましょう」
「ありがとう。俺も探してもらってる」
「じゃあ、今から診断書もらいに病院に行きましょう」
「マネージャー…」
マネージャーは必死だった。
病院に着き、必要書類をもらった。
「これらはコピーして渡しておきますので、チスンさんは帰って休んで下さい」
「うん…ありがとう」
「あっ…薬はちゃんと飲んで下さいね」
「ハハハ、わかってるよ」
「チスンさん、必ず見つかるはずです‼︎」
「うん…」
チスンはマネージャーの存在が心強かった。
3日後、チスンの知り合いのアメリカの医者から連絡があり、メールで送っていた診断書を見て手術は厳しいと言われた。
優秀な医者だっただけに、チスンはショックを隠せなかった。
マネージャーが当たっているところも、全て難しいとのことだった。
マネージャーはチスンのことが心配になり、15時過ぎにチスンのマンションに行った。
「マネージャーさん‼︎」
「どうも、お久しぶりです。あの…チスンさんは?」
「ちょっと待ってて下さい。呼んで来ます」
しばらくして久美子が戻って来た。
「今、自分の部屋にいるんですけど…マネージャーを通すように言われました。どうぞ」
「は、はい」
マネージャーはチスンの部屋に入った。
「チスンさん…」
「俺のことが心配になったんでしょ?」
「、、、、」
「もう無理なのかな、俺の病気は…」
「そっ、そんなこと!」
「マネージャー、俺どうしたらいいと思う?」
「え…」
「自分でもどうしたらいいのか分からない…」
マネージャーは何て言ったらいいか分からなかった。
「結婚しない方がいいのかな。先が長くない人と結婚しても、余計に悲しませることになってしまう…」
「チスンさん、まだ諦めちゃダメです。他にも当たってみましょう」
「どっちにしろ結婚は延期にするしかない…」
「…そうですね」
「マネージャー、これから一緒に病院に行って欲しいんだけど」
「病院に?」
「今後のことで家族を連れて来て下さいと言われてるんだけど、とても言えないから」
「わかりました。行きましょう」
2人が部屋を出るとジスンが寄って来た。
「パパ、どこか行くの?」
「うん、ちょっと出て来る」
「帰りは遅くなるの?」
「19時までには帰れると思うよ」
「じゃあ、ご飯作って待ってるね!」
「パパ、早く帰って来てね」
「うん!」
病院に着いた2人は、担当医の部屋に入った。
「チスンさん、こちらの方は?」
「僕のマネージャーです」
「ご家族の方は?」
「家族にはちょっと…マネージャーでもいいでしょ?」
「え…でも…」
「チスンさんは私にとって家族同然です」
マネージャー…
「…わかりました。では今後のことなんですが、抗がん剤治療ということでどうでしょうか?」
「抗がん剤治療しても治らないんですよね?」
「…そうですが、何もしなければいつどうなるか」
「治療をして、約1年生きれるってことですね…」
「はい」
「治療中は症状が出て、周りに知られますよね?」
「ご存知だと思いますが…脱毛、吐き気、力の衰えが出て来ますので、せめてご家族には話された方が…」
「もし治療しなかったら、症状は出ないんですか?」
「そのうち出てきます。強い頭痛におかされ倒れてしまう可能性があります」
「いつ頃から出てきますか?」
「1ヶ月前後くらいからだと思います」
「そんなに早く?」
「抗がん剤治療はしません」
「え?」
「どうせ治らないのなら、何もしません。副作用で弱っていくとこ見せたくないし」
「でも、何もしなかったら何が起きるか…」
「大丈夫です。ありがとうございました。失礼します」
2人は病院を後にした。
「チスンさん、本当にそれでいいんですか?」
「うん。副作用出てきたら仕事出来ないでしょ」
「仕事は休まれた方が…」
「するよ。ドラマも引き受けたし、責任持ってやる」
「チスンさん…」
本当は、久美子とジスンに弱っていく姿を見せたくなかったのだ。
チスンは家に帰って夕食を終えると、ジスンが寝たのを見計らって久美子をソファーに座らせた。
「チスン…どうしたの?」
「…あのさ、結婚のことだけど…」
「うん」
「来週入ってすぐは仕事が立て込んでて、来月半ばからドラマの撮影も入るから…それが落ち着いてからにしたいんだけど」
嘘をつきたくなかったけど、こう言うしかなかった。
「え…」
「ごめん…」
「仕事が忙しいなら仕方ないよね…結婚は延期するだけだよね?」
「…うん」
「うちの実家は…どうする?」
「ごめん。日を改めよう…」
「わかった…明日にでも電話入れとく。チスンのご両親には話したの?」
「まだ…話しておくよ」
久美子は少し不安だった。
「チスン…落ち着いたら絶対結婚するよね?」
チスンは久美子を抱きしめた。
「…うん。するよ…」
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