真実【完結】

真凛 桃

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39話 真実

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誕生日当日、久美子は店長にジスンを預かって欲しいと頼む。


「え⁈ジスン連れて行かないの?」  

「私1人で行きます。今日ホンユさんにハッキリ断ろうと思って…遅くならないようにするので帰ってジスンのお祝いします」

「…そっか。でも今日じゃなくても…」

「中途半端にズルズルいきたくないし、ホンユさんの為にも早く断った方がいいと思って…少しでも揺らいでしまった私がいけないんです」

「…そっか。わかった」

「すみません、店長…」


仕事が終わる頃、店の前にホンユの車が停まったことに気付いた久美子は、ジスンに気付かれないように店を出てホンユの車に乗った。


「ジスンは?」

「店長に預かってもらってます。ジスンのお祝いで来てくれたのに、ごめんなさい」

「え?意味がわかんないんだけど」

「私、ホンユさんに話があります」

「…とりあえず車出すよ」


なんとなく察したホンユは、車を走らせるとソウル市内の公園で車を停めた。


「少し歩こうか」

「…はい」


しばらく黙ったまま2人は歩き、心を決めた久美子は立ち止まった。


「ホンユさん…私」

「ちょっと待って。俺からいい?」

「え?」


ホンユはポケットから小さな箱を出した。

箱の中から取り出した物は指輪だった。


「こ、これ…」

「久美さんとジスンを幸せにする!久美さん、結婚しよう」


ホンユはそう言うと久美子の左手の薬指に指輪をはめようとする。

久美子は思わず手を引いた。

「久美さん…」

「ホンユさん、ごめんなさい。私…結婚出来ません」

「何で?俺のどこがダメ?」

「ホンユさんがダメとかじゃなくて…他の人でも無理なんです」

「それって…チスンのせい?」

「、、、、、」

「そうなんだね。だからあいつとは会って欲しくなかった…」

「ごめんなさい」

「…久美さんとジスンの為なら何でもするし、望みも全部叶えてやる!だから…だから俺と…」

「ホンユさん…私、今まで何度も自分に言い聞かせてきました。ホンユさんなら私とジスンを幸せにしてくれるって。だけど…どうしてもチスンが私の中から離れないんです。忘れようとしても忘れられないんです…」

「…だから、俺を振ってチスンとヨリを戻すの?」

「違います。ただ…無理して忘れようとしたくないんです」


ホンユは黙っている。


「ホンユさんには今まで良くしてもらって本当に感謝しています」
 
「…気持ち、固そうだね」

「…ごめんなさい」


ホンユは笑い出す。


「ホンユさん?」

「お前たち2人ってヤツは…」


ホンユは何だか吹っ切れた気持ちになった。


「やっぱりチスンと久美さんには敵わないなー」

「え?」

「あいつも何で言わないんだ」

「え…何をですか?」

「もう教えておくよ。チスンは知ってるよ。自分がジスンの父親だってこと…」

「…え?う、嘘でしょ…」

「本当だよ」

「い、いつからですか⁈」

「久美さんとチスンがもう最後って言って会った3日後くらいだったかな」

「え…ホンユさんが教えたんですね…」

「俺が教える訳ないでしょ」

「じ、じゃあ何で…チスンはそんなこと一言も…一昨日だって…」


久美子は思い出した。
ジスンが願い事を言ったあと、チスンが涙を流していたことを…



「あいつは元々勘が鋭いし、何かおかしいと思ってDNA鑑定したみたい。よく考えてみたら久美さんとチスンが付き合ってる時、久美さんと俺が関係を持たない限り、今年4歳になる子供が出来る訳ないしね。結局あいつは、久美さんは絶対に浮気なんかしないって信じてたってことだよ」

「チスン…知ってて…」

「本当は知ったことを言いたかったんだろうけど、あいつは俺と久美さんが付き合っててもうすぐ結婚すると思ってるから言えなかったんだろう。どれだけお人好しなんだか…俺もそのこと知ってたのに黙っててごめん…」

「…私」

「え?」

「私、行かなきゃ…ホンユさんごめんなさい」


久美子は走り去って行った。

「久美さん!!」



久美子はチスンのマンションに向かってひたすら走った。


チスン…

自分の子だと知りながら
ジスンに接してくれてたんだね…

なのに私は…

ごめん…チスン…


今いる所がどこかも分からずに走った挙げ句、道に迷ってしまった。
タクシーを拾おうと財布を開くとお金が入っていない。
携帯を取り出し、チスンに電話をかけた。




その頃チスンは体調が悪く、事務所で横になっていた。

「もしもし…チスン」

「…クミ」

チスンの声を聞いた途端、涙が出てきた。

「クミ?もしもし?どうした?」

「チスン…」

「どうしたんだよ、今どこ?」

「…わからない」

「わからない?え?」

「ここがどこなのか…わからない…」

「1人なの?」

「…うん」

「周りに何がある?」

「…コンビニ」

「コンビニって…他には?」

「…何かお店はあるけど、何のお店かわからない」

「…じゃあ、とりあえず周りの写真を撮って送って。調べて迎えに行くから」

「…うん」


久美子は写真を撮ってチスンに送った。

チスンはしばらく色々と調べた後、急いで車を走らせた。


1時間後、チスンは久美子を見つけた。

「クミ!!」

「チスン」
  
「ごめん。遅くなった。いったいこんな所で何してんだよ!」


久美子はチスンに抱きついた。


「ク、クミ?」

「チスン…ごめんなさい」

「泣いてるの?クミ、どうした⁈」

「本当に…本当にごめんなさい…」

「とりあえず車に乗って」



「ジスンは?」

「店長に見てもらってる」

「どうして?今日はホンユとジスンのお祝いするんじゃなかったの?」

「…ホンユさんとは、ハッキリさせたくて2人で会ってた…」

「ハッキリって?」

「プロポーズされたけど…断った」

「え?何で?じゃあ別れたってこと?」

「別れるも何も…付き合っていないし。全部私がいけないの…」

「付き合ってなかったの⁈え…?俺てっきり付き合ってるのかと…」

チスンは頭を抱えた。

「…そうだったんだ。でも何でクミはこんな所に…」

「チスンのマンションに行こうと思って…途中で道が分からなくなった…」

「何やってんだよ…」

「…チスン、お願いがあるんだけど…」

「何?」

「ジスンを迎えに店長の家に連れて行って欲しいの…」

「わかった」


到着すると、店長とジスンが玄関で待っていてくれた。

「ママー」

「ジスンお待たせ。ごめんね。遅くなって」

「ホンユさんとは?」

「店長すみません。今度お話しします。今チスン待たせているので行きます。ありがとうございました」

「え?チスンさん?え⁈」

久美子はジスンを連れて、チスンの車に乗った。


「お兄ちゃん‼︎」

「ジスン」

ジスンはチスンに会えて大喜びする。

「ジスン、お誕生日おめでとう‼︎」

「ありがとう‼︎」

「ジスン、よかったね。お兄ちゃんに会えて」

「うん!」

「えっと…後はクミの家に送ればいい?」

「…う、うん。その前に話が…」

チスンの顔を見ると、額から汗を流し苦しそうな表情をしていた。


「チスン?どうしたの⁈」

久美子はチスンのおでこに手を当てる。

「チスン⁈熱があるじゃない‼︎」

「…大丈夫」


車を走らせ、無事に久美子の家に着いた。


「チスン、大丈夫?」

「うん。大丈夫だから、部屋に入って」

「お兄ちゃん、苦しそう…」

「家で少し休んで行って!」

「え…」

「お兄ちゃん、行こう」

ジスンはチスンの手を引っ張って、家の中に入った。


「とりあえずこれに着替えて」

「うん…」

久美子は薬を飲ませ、ベッドに休ませた。


「ママ、お兄ちゃん大丈夫かな?」

「うん、そっとしといてあげようね」

ジスンは心配してチスンの傍を離れない。

「ジスン、今日はこっちで寝よう」

ジスンをソファーに寝かせた後、久美子はチスンの看病をする。

汗で濡れた服をもう一度着替えさせて部屋を出ようとすると、チスンが久美子の手を掴んだ。

「チスン?」

チスンは無意識に掴んでいた。

久美子はチスンの寝顔を見ながら何度も謝った。

そのままチスンの横で、いつの間にか寝てしまっていた。



午前4時、チスンは目を覚ました。

そっか…昨日…
クミ…ありがとう… 

この日、朝から仕事が入っているチスンは久美子とジスンを起こさずに、そっと部屋から出て行った。


それから3時間後に目が覚めた久美子は、チスンがいないことに気付き、慌ててチスンに電話をかけた。

「もしもし」

「もしもしチスン、今どこ⁈」

「事務所だよ。ごめん、黙って帰って」

「体調は?大丈夫なの?」

「うん。クミのおかげだよ。ありがとう」

「よかった…ねぇチスン、話があるんだけど、今夜会える?」

「今日はちょっと遅くなるよ。ごめん」

「遅くなってもいい。帰ったら教えて。行くから」

「え…でも日付け変わるかも知れないよ」

「それでもいい」

「…じゃあ先に入ってて。玄関の暗証番号覚えてる?」

「うん、覚えてる」


夜になり、久美子はジスンを連れてチスンのマンションに行った。

「お兄ちゃんいつ頃帰って来るの?」

「遅くなると思うから、眠くなったら寝ていいからね」

「待ってる‼︎」

「ジスン」

「なぁに?」

「もう1人のお兄ちゃんいるでしょ?パパのことだけど」

「うん」

「本当のパパじゃないことは分かってるよね?」

ジスンは黙っている。

「本当のパパに会いたい?」

「本当のパパに会えるの?」

「うん。ジスンのパパに会わせてあげるね」

「いついつー?うわー!パパに会えるんだー!お兄ちゃんみたいな人だったらいいなー!」

ジスンはしばらく興奮して、喜びが止まらなかった。
その後、23時過ぎまで頑張ってチスンの帰りを待っていたが、いつの間にか寝てしまった。


24時を過ぎた頃、仕事を終えてチスンが帰ってきた。


「ごめん、クミ!遅くなったよ」

「おかえり!」 

「ちょっと待ってて。急いで着替えてくるから」

チスンは着替えてリビングに行くと、ソファーに寝ているジスンに気付く。

「ぐっすり寝てるね」

「うん」

「クミ、昨日はありがとう。おかげでこの通り元気になったよ」

「すこい熱でビックリしたよ。本当は昨日体調が悪かったんでしょ?それなのに、迎えに来てくれて…ごめんね」

「道に迷ったって聞いて心配で…ところで話って何?なんか怖いんだけど…」

「チスン…私、意地張ってた」

「意地張ってたって?」

「本当は後悔だらけなのに、迷惑かけたくないからとか自分を責めてばかりで、正直になれなかった。この前チスンに言われてすごく納得したの」

「クミ…」

「チスンのことで後悔ばかりした。なのに意地張って正直になれなくて…無理して忘れようとしてたけど出来なかった」


話し声を聞いてジスンが目を覚ました。

「お兄ちゃん!!」

「ジスン、ごめんね。起こしちゃったね」


「チスン…辛い思いさせてごめんね…」

「え?」

「知ってたんだね…なのに、私は…」

「…クミ?」


久美子はジスンをチスンの前に座らせた。


「ジスン、本当のパパに会いたいんでしょ?」

「うん…」

「このお兄ちゃんがジスンのパパだよ」

チスンは言葉が出ない。

「お兄ちゃんが…パパ…?」

「そうだよ。ジスンの大好きなお兄ちゃんがパパよ」

ジスンは嬉しさのあまり泣き出した。

「ジスン…」

「チスン…黙ってて、本当にごめんなさい…」

泣いているジスンのことをチスンは抱きしめた。

「チスン…許してくれる?」

「…許すも何も…話してくれてありがとう」

「パ…パ…」

初めてジスンにそう呼ばれてチスンは涙ぐむ。

「クミ…1人で大変だったよね…なのに何も知らずに俺は…こんなに可愛い子を産んでくれてありがとう」

久美子は頭を大きく横に振る。

「…チスン。私たち…やり直そう…」

「ちょっと待って」

「え…」

「ちょっと言わせてもらうよ」

「う、うん…」

「俺は今も変わらずクミのこと愛してる。この気持ちはこれからもずっと変わらない」

「…チスン」

「クミとジスンを世界一幸せにしたい。だから僕と…」

「え?」

「僕と結婚して下さい」



久美子の目から涙が溢れ出した。

「ママ?どうしたの?」

「クミ?」

「ごめんなさい…」

「え?」

「あまりにも…嬉しくて…」

「…じゃあ…」

「よろしくお願いします…」

チスンは久美子を抱きしめた。

「私もーっ!」

3人は抱き合った。

「3人で幸せになろうね…」

「 うん 」

「クミ、ジスン、愛してるよ…」





 
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