真実【完結】

真凛 桃

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21話 言えない辛さ

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チスンが運ばれた病院は、マスコミで溢れかえっていた。

チスンは緊急手術となった。


テレビでは速報で、この事件のことばかり流れていた。


その頃、何も知らない久美子は仕事をしていた。

店長の予約客が来店し、そのお客さんがニュースの話をし始めた。


「ね!店長さん、ニュース見た?あり得ないんだけど‼︎」

「何かあったんですか?」

「知らないの⁈チスンよ‼︎」

カットを担当していた久美子は、手を止め話に耳を傾けた。


「チスンがどうしたんですか⁈」

店長は久美子を見ながら恐る恐るお客さんに尋ねた。

「刺されたのよ!ファンに‼︎胸を刺されたってよ!」

久美子は急いで裏に行きテレビをつけた。

店長も慌てて裏に来た。

ニュースを見た久美子はショックを受ける。

「クミちゃん!今すぐ病院に行って来なさい‼︎」

「はっ、はい」

久美子は泣きながら急いでタクシーを拾い、病院へ向かった。

病院に着くと、入口はマスコミだらけだった。

久美子は押し切って中に入り、受付の看護師に尋ねる。

「あの、チスンさんは今どこですか⁈」

「失礼ですがどちら様ですか?」

「あ…あの、それは…」

「ご家族と関係者以外はお断りしております」

そこにチスンのマネージャーが来た。
久美子が駆けつけると思って待っていたのだ。

「あの…久美子さんですか?」

「はい」

「この方は関係者です」  

「そうでしたか。わかりました。こちらへどうぞ」

久美子はマネージャーに連れられ、手術室の前に行った。

「私はチスンさんのマネージャーです。今チスンさんは手術中です…」

「チスンは…チスンは大丈夫なんですよね⁈」

「きっと…大丈夫です」
 
「どうして…どうしてこんなことに…」

久美子は泣き崩れた。

マネージャーは何も知らない久美子に全てを話した。


「そ…そんな…」

「私も初めは止めたんですが、チスンさんの気持ちに負けました。それだけ久美子さんのこと…以前も同じようなことがあったから守りたいって気持ちが強かったと思います。ただ…こんなことになってしまって、かえって久美子さんを悲しませてしまうことになりましたが…」


だから毎日徹夜してたんだ…

あの人を見つけ出す為に…


「それにチスンさんはかすり傷で済ませるつもりだったんです。でも突然あの女が思い切り刺してきたので、かわすことが出来なかったんだと思います。それにチスンさんは寝てない日が続いてたので感覚も鈍っていたんだと思います…」

「…そこまでして…」

「本当に申し訳ありませんでした」

久美子は言葉が出なかった。


しばらくすると続々と関係者が集まって来た。
その中にはチスンの両親の姿もあった。

「お父様、お母様」

「マネージャー!チスンは⁈大丈夫なのよね⁈」

「今、手術中です。本当に申し訳ありません」

「どうしてこんなことになったんだ⁈」

「…すみません」


マネージャーはただ謝ることしか出来なかった。
関係者たちは、泣き崩れる久美子をジロジロ見ている。

「あの人は?」

「…あの…チスンさんの知り合いの方です」

マネージャーはそう説明するしかなかった。

久美子は周りからの視線に気づいていたが気にも留めず、ただチスンの無事だけを願っていた。

そこにスジンとホンユが駆けつけて来た。

久美子がいることに気付いたスジンは、久美子の元に駆け寄る。

「久美ちゃん、大丈夫⁈」  

久美子は黙ったままうつむいていた。

「久美さん、ちょっと向こうに行こう」

ホンユは誰もいない離れたところに久美子を連れて行った。

「チスンのやつ何してんだよ。マジであり得ない!スタッフも警備も付けないで…あんな場所で…」

「…詳しいことはマネージャーさんに聞いて下さい」

ホンユはチスンのマネージャーに詳しい事情を聞きに行った。


しばらくして、ホンユが険しい顔をして戻って来た。

「全部聞いたよ。あいつ…そこまでして…」

「…チスン、大丈夫ですよね…」

「…うん。きっと大丈夫だよ」


1時間後、手術中のランプが消え先生が出て来た。

チスンの両親が駆け寄る。

「先生‼︎チスン…うちの息子は⁈」 

「もう大丈夫ですよ。あと数cm深く刺さっていたら心臓に達して危険でしたが、サラシを厚く巻かれていたので何とか大丈夫でした。後ほど病室に移しますので、麻酔が切れたら目が覚めるでしょう」

「よかった…先生!ありがとうございます」

久美子は安心したせいか体の力が一気に抜け、その場にしゃがみ込んだ。

関係者もみんなホッとした様子で笑顔になっていた。

「よかった。久美子さん、よかったですね‼︎」

マネージャーから声をかけられると、涙を流し頷いた。



すると、チスンの母親が久美子に話しかける。

「すみませんが、あなた、チスンとどういう関係ですか?」

「え…そ、それは…」

戸惑っている久美子を見て、ホンユが会話に入る。

「僕の彼女です」



え…

周囲の人たちが一斉にこっちを見る。

「あら!ホンユさんじゃない‼︎初めまして。この方ホンユさんの恋人だったのね…」

「はい…」

ホッとしたチスンの両親は、その場を離れた。


「ホンユさん、ちょっといいですか?」

話を聞いていたマネージャーは、ホンユを
離れた場所へ連れて行き尋ねた。

「どうしてあんな嘘をついたんですか?」

「久美さんが可哀想だったから。チスンの彼女とも言えずに困ってたでしょ?」

「それはそうですけど…周りにいる人たちも聞いてましたが、ホンユさんは大丈夫なんですか⁈」

「俺は大丈夫です。チスンの顔見たら、久美さん連れて帰ります。ここには居づらいだろうし」

「わかりました。チスンさんのご両親は明日帰られると思うので、誰もいなくなったら久美子さんに連絡すると伝えて下さい」



ホンユと久美子はチスンの病室に入って行った。





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