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8話 チスンの気持ち
しおりを挟む月日だけが過ぎていった。
ホンユから何度か誘いがあったが、久美子は毎回断り続けていた。
スジンからの連絡はなかった。
本来なら、今日はチスンとロケ地にいく約束をしていた予定の日。
チスンはこの日、事務所にいて久しぶりにスジンと顔を合わせることになった。
「チスンお疲れ」
「…お疲れ様です」
「ちょっといいか?」
スジンはチスンを別室に連れて行った。
「何ですか?」
「お前、あの日…公園の近くにいただろ?」
「え…」
「久美ちゃんを送って、なぜ戻って来たんだ?」
「それは…」
「大体お前は女を誘ったり、自分からするタイプじゃないのに…どうしたんだ」
「…自分でも分かりません。でも初めからスジンさんと久美子さんがそういう関係だと知っていたら、誘ったりなんか…」
「フラれたよ…」
「え?」
「あの日公園で…フラれた。俺が一方的に想ってただけなんだよ」
「そ、そうだったんですか…」
「久美ちゃんは…お前のことしか頭にないの知らないだろ?」
「…え…」
「お前と会う前から、久美ちゃんはお前のことが好きだったんだよ」
「そ、そんな…」
「だから会わせたくなかったのに。あの日お前が店に来たせいで……まぁ後は、受け入れるか受け入れないか、お前の気持ち次第だからな」
そう言うとスジンは部屋を出て行った。
チスンは家に帰り、久美子と初めて会った日からのことを振り返り、考えていた。
(俺のファンだったんだ…そういうこと一言も言わなかった…喜ばせるだけ喜ばせておいて、最後に俺はひどいこと言って…俺は何をしてるんだ…)
22時を過ぎていたが、チスンは久美子の家まで車を走らせた。
久美子の家に着き、チャイムを鳴らすが反応がない。
携帯も番号を消去したので分からない。
この日はロケ地に行く約束をしてた日だったことを思い出した。
(まさか…)
チスンは再び車を走らせ、ロケ地に向かった。車を飛ばして到着すると久美子のことを探し回った。
すると、チスンは立ち止まった。
(久美子さん…)
誰もいないなか、イルミネーションを見ている久美子がいた。
久美子は1人で来ていたのだ。
チスンが近づいていくと、久美子はチスンに気がついた。
「…チスンさん‼︎どうして⁈」
チスンは何も言わず、久美子にキスをした。
(え…チスンさん…)
「何も気づかずにごめん…」
「え?」
「好きになったみたい…なんだ」
「え…」
「久美子さんのことが好き」
久美子は驚きのあまり言葉が出なかった。
「こういう仕事をしてるから、誰とも付き合う気はなかったけど、初めてこんな気持ちになった。ごめん…気持ちを抑えきれない」
久美子は黙って聞いている。
「大した男じゃないけど、これだけは自信持って言える。隠し事はしないし、悲しませることは絶対にしない…」
「…チスンさん…」
チスンは何かを決意し、深呼吸をした。
「俺と…」
(まさか…)
「俺と付き合って欲しい」
久美子は嬉しさのあまり泣きながら、迷うことなく頷いた。
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