ダンナ様はエスパー?

daisysacky

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第7章  あの子を守れ!

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  ふいをつかれたとはいえ、やはり不自然なくらいに、うろたえたのが
よくなかった。
灯里の目が、悲しそうにじぃっと久志に注がれている。
まるで彼の心の奥を読み取ったかのように、見ているのを…
久志が気付くのに、少し時間がかかり過ぎてしまっていた。

「どうしたの、灯里?
 気持ち悪いの?」
 ようやく久志が近付こうとすると、彼女は初めて身をよじる。
その瞳は、何かを訴えているようだった。

あれ?
何だか様子が、いつもと違う…
そう気が付く間もなく、灯里はすぃっと体をずらすと、
「大丈夫よ!
 私は、子供じゃあないんだから」
珍しく妙にトゲのある言い方をする。
「えっ」
一体どうしたんだ、と視線を向けると、彼女はつぃっと
目をそらす。
(マタニティーブルーか?)
その時、自分への不信感とは思わず、そう思いこもうとする。
(大丈夫だ、きっとそのうち、落ち着くだろう)
能天気にそう信じこんだ。

「えっと、どうしたの?」
 なるべく刺激をしないように…と、久志は慎重に口を開く。
「別に、何も」
だがにべもなく、彼女は頭を振る。
だけどその表情は、何もないわけがない。
すっかり落ち込んだような顔をして、目に見えて沈んでいるように見えた。
だが、何とか強がりを見せるように、ぐぃっと顔を上げると
「何よ、そんな…腫れ物をさわるように、気を使わなくてもいいのに。
 単なるツワリなんだから」
何だかイライラしたような口調でそう言うと、クルリと背を向ける。
 一体灯里の中で、何があったのか…
久志には、まだ見当もつかない。
ただ黙って、彼女の背中を見つめるだけだ。

(なんでみんな…そんなに、私のことを気にするの?)
 灯里には、どうしても…理解出来なかった。
(それに、みんなに迷惑ばかり、かけている…)
 誰かのお荷物には、なりたくない…
せめて、人の役に立ちたい…と、思っているのに、
みんなが気を遣うのが、かえって重荷になっていた。
(いっそのこと…どこかへ、消えてしまおうか?)
灯里は考えていた。
(そうしたらもう…誰にも迷惑をかけずにすむ!)
 
 彼女はすみやかに、実行に移した。
だが、心残りは、久志に心配をかけることだった。
黙って行こうか、それとも…
迷っているうちに、まさか天の配剤のように、ベストなタイミングが
やってきた。
(これを逃したら、次はない!)
そう思い、彼女はひそかに準備を進めるのだった。
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