ちょっと待ってよ、シンデレラ

scene 1 １２時の鐘が鳴り終わる前に

１

「危ないところでしたね」
　魔法使いは言いました。
「約束は、キチンと守ってくださいよ」
そう言うと・・・エラは、ガラスの靴をぬいで、古ぼけた布にくるんで、
「だって、王子様が、離してくれないんですもん」
と、口をとがらせました。
「それは、困りましたね～」
魔法使いは、ため息をつき、
「なんとかしなくては、なりませんね。
　あなた、このままだと、帰れなくなりますよ！」
と、少し考え込むような顔をしました。

　こどものころから、この村の女の子たちはみんな、
お城の舞踏会に呼ばれることを、夢見ていました。
どうやらそこには、とても素敵な王子様がいるらしい・・・
女の子のステイタスといえば、やはり社交界デビューだったのです。
誰が一番に、舞踏会に呼ばれるか！
胸躍らせていたのです。
それがついに、チャンスが訪れた！
なんでも、プリンスの結婚相手を探す・・・というもの。
老いも若きも、噂で持ち切り。

「どうしようかね・・・もしも、王子様に見初められたら・・・」
「何言ってるの！今度、孫が生まれるような人が」
「あんたみたいなバアサンを、誰が見初めるかい」
女たちはかしましく、話すのでした。

もちろん、エラの家でも、例外ではなく、普段は
ヒステリックな継母も、この時ばかりは、大騒ぎ。
「どうしましょう！舞踏会に来ていく服がないわ！」
「アンタ、ちょっと、何サボってるの！
　もっと、ピカピカに磨きなさい」
　哀れ、エラにもしわ寄せが・・・
「いい迷惑よね」
　仲良しの小鳥に、こっそりと文句を言うのでした・・・

　すべては、見栄っ張りの継母のせい・・・
「うちの財政、知ってる？火の車なのよ！
　すべては、あの親子が浪費しなければ・・・」
　パパが生きている時は、よかった・・・
ママが死んで、あの親子を連れて来るまでは・・・
エラはため息をつきます。

あ、ここで説明いたしますと・・・
エラというのが、シンデレラのことです。
新しくやってきた、継母が・・・
エラをこき使ったあげく、ほこりまみれ、灰まみれになったエラをからかって、
シンデレラ、灰かぶりと、呼んだのです。

　すると、エラが物思いにふけっているところに、
魔法使いの声が響きます。
「とにかくもう１度、言うわ！
　１２時の鐘が鳴る前に、必ず帰ってくるのよ。
　さもないと、とんでもないことになるわよ！」
　エラは大きくうなづくと、魔法使いはニッコリと
微笑んで、
「大丈夫よ、とにかくハメをはずさないこと・・・
　それから、うまく王子様の誘いをかわすことね！」
と言いました。

　ところで、ここで疑問に思うのですが・・・
そんなに長いこと踊っていて、疲れないのかしらね？
さらに言うと・・・
なにも、3日間、全部でなくても・・・
1日でも、ダメなのかしら？
そこまでして、行くメリットは何？
などと考えてしまうこと自体、無粋、というものなのでしょうか？

　まぁ、細かいことは置いといて・・・
しばらく、このシンデレラの話のおさらいに、お付き合いくださいね。