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Scene13 ガラスの靴を、シンデレラ
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遠くにかすかに、鐘の音が聞こえてきます。
窓の外を見ると、あの日と同じ、月のきれいな夜です。
「さぁ、寝なさい!
話の続きは、また明日!」
そう言うと、母親は女の子の枕元に、いつものように女の子の
お気に入りの、クマのぬいぐるみを置きます。
女の子がそれを抱きしめるのを見ると、
「さぁ、おやすみなさい。お姫様!」
それから灯りを消して、子供部屋のドアを閉めました。
静かに自分の部屋へと戻ると、そっとクローゼットに近付きます。
今晩は、女の子の父親は飼えりが遅いので、2人だけの夜です。
寝室には、月明かりが差し込んでいて、レースのカーテンを
揺らします。
こんな日に月を見ていると、あの日の出来事を思い出すのです。
クローゼットを開くと、服がギッシリと積み込まれていて、
その下の段に、手を突っ込むます。
普段使いのトートバッグにエコバックが、詰め込まれている中に混じって
色あせた、かなり年代ものの、古いトートバッグを取り出します。
すっかり黄ばんでしまい、いつもはしまい込んで、忘れられた
そのバッグ…
それを取り出すと、中にぐいっと手を入れます。
もう自分は…シンデレラでもないし、もちろん信子でもない…
娘に聞かれて、久しぶりに、あの子はどうしているのだろう…と、
片割れだった、あの少女のことを思い出すのです。
バッグの中には…ほかに何も入っていません。
底の方に、手を慎重に差し入れると、あの日と同じように、
古い布でくるまれた…塊が、姿を見せました。
その布をゆっくりと、開いていくと…
月明りにキラキラと…まるで宝石のように、ガラスの靴が
光り輝いているのが見えました。
目の奥には、光の中を走って行く、あの女の子の姿が、
鮮やかによみがえるのです。
光の中に溶け込む瞬間…
あの境界線を越えて、目の前で光の輪が消える瞬間。
あの時、確かにあの女の子が、一瞬、こちらを振り返って、
ニッコリと微笑んだのです。
それはほんの一瞬で、マボロシのように消えたのですが…
それでも光が消える、その瞬間に…
最後の鐘が高らかに鳴り響き…
彼女の耳には、確かにあの女の子の声が聞こえてきたのです。
それは、たったひと言。
「ありがとう」と。
それは、風が梢を揺らすように、かすかな声でした。
窓際に近寄って、静かにそのガラスの靴を、月にかざしてみます。
あの日のように、再び輝きを取り戻していました。
まるで、長い夢からさめたように…
再び、あの日の夢を見ているように…
fin
窓の外を見ると、あの日と同じ、月のきれいな夜です。
「さぁ、寝なさい!
話の続きは、また明日!」
そう言うと、母親は女の子の枕元に、いつものように女の子の
お気に入りの、クマのぬいぐるみを置きます。
女の子がそれを抱きしめるのを見ると、
「さぁ、おやすみなさい。お姫様!」
それから灯りを消して、子供部屋のドアを閉めました。
静かに自分の部屋へと戻ると、そっとクローゼットに近付きます。
今晩は、女の子の父親は飼えりが遅いので、2人だけの夜です。
寝室には、月明かりが差し込んでいて、レースのカーテンを
揺らします。
こんな日に月を見ていると、あの日の出来事を思い出すのです。
クローゼットを開くと、服がギッシリと積み込まれていて、
その下の段に、手を突っ込むます。
普段使いのトートバッグにエコバックが、詰め込まれている中に混じって
色あせた、かなり年代ものの、古いトートバッグを取り出します。
すっかり黄ばんでしまい、いつもはしまい込んで、忘れられた
そのバッグ…
それを取り出すと、中にぐいっと手を入れます。
もう自分は…シンデレラでもないし、もちろん信子でもない…
娘に聞かれて、久しぶりに、あの子はどうしているのだろう…と、
片割れだった、あの少女のことを思い出すのです。
バッグの中には…ほかに何も入っていません。
底の方に、手を慎重に差し入れると、あの日と同じように、
古い布でくるまれた…塊が、姿を見せました。
その布をゆっくりと、開いていくと…
月明りにキラキラと…まるで宝石のように、ガラスの靴が
光り輝いているのが見えました。
目の奥には、光の中を走って行く、あの女の子の姿が、
鮮やかによみがえるのです。
光の中に溶け込む瞬間…
あの境界線を越えて、目の前で光の輪が消える瞬間。
あの時、確かにあの女の子が、一瞬、こちらを振り返って、
ニッコリと微笑んだのです。
それはほんの一瞬で、マボロシのように消えたのですが…
それでも光が消える、その瞬間に…
最後の鐘が高らかに鳴り響き…
彼女の耳には、確かにあの女の子の声が聞こえてきたのです。
それは、たったひと言。
「ありがとう」と。
それは、風が梢を揺らすように、かすかな声でした。
窓際に近寄って、静かにそのガラスの靴を、月にかざしてみます。
あの日のように、再び輝きを取り戻していました。
まるで、長い夢からさめたように…
再び、あの日の夢を見ているように…
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どうもありがとうございます!
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どんな展開になっていくのか予想しながら楽しく読み進めさせていただきます。
ありがとうございます🎵
これから、全然違うシンデレラストーリーが始まります。
もしも、シンデレラが現れたら、こうなるのかな?と想像しながら書いてます。ラストシーンしか、決めてないので…どうやって進めようかな?とワクワクしながら書いてます❗
ありがとうございます!
今後の展開も、お楽しみに🎵
なるほど、そうきましたか。
この先の展開が気になりますね。
(*^^*)
そうきました。これから、オリジナルが始まります。
見たこともないシンデレラストーリー、頑張ります