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Scene12  シンデレラはガラスの靴をはいて

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   エラとシューヘイが戻ると、車の中は相変わらず、カーラジオから、
歌が流れ、カスミや大家さんが何事か話込んでいるのが見えました。
林の中から、ゆっくりと姿を見せると、2人の頭がゆっくりと動き、
「あっ、話はちゃんと出来たの?」
穏やかな顔をこちらに向けて、カスミが手を振りました。
「うん」
 シューヘイはいつもの優しいシューヘイに戻り、運転席のドアを
開きます。
「今、何時?」
チラリ…とエラはカスミの方を見ると、確かめるように聞きます。
カスミは腕時計を、車のライトにかざすと、
「今丁度、11時の15分前かな」
そう言うと、大家さんも「うん」とうなづきます。
「そろそろ行きましょう!遅れたら大変よ!」
そう笑いながら言うので…確かにそうね、とうながされるまま、
カスミと信子も、車外へと出てきました。

 シューヘイの背中の後ろで、エラはギュウッと手を握りしめます。
なんだか急に、とてつもなく緊張してきて…どうしたらいいのか
わからなくなり、頭の中が真っ白なのです…
 そんなエラに気付いたのか、
「大丈夫よ」
助手席から出て来たカスミは、エラの背中をポンとたたきます。
「みんなが、一緒にいるから」
そう言うと、ウィンクしてみせました。

 どこかで、ホーホーとふくろうの声が響いています。
夜の空気はヒンヤリとしていて冷たいけれど、エラは逆に
ビッショリと汗ばむのを感じます。
大家さんの後に続いて、信子も車から出て来て、
「車…このままで大丈夫ですか?」
心配そうに聞くと、
「大丈夫、この辺りは、車の往来がほとんどないから」
大家さんが、にこやかに言いました。
「一応、ライトだけはつけておいてね。
 ロックは、わすれないでね」
 高らかに、シューヘイに宣言すると、エラをうながして、
トンネルの側に、近付いて行きます。
それにあわせて、エラの心臓の鼓動が、さらに早くなったような
気がします。
エラは顔を赤くさせながら、勇気を振り絞ってその後ろに
続きました。

  こんないかにも何か出そうなトンネル…
本当におとぎの国に、つながっているのでしょうか?
疑問が山のように、涌き出るエラに、励ますようにカスミは、手をそっと握ると
「大丈夫よ!みんながいるから、怖くないわ」
微笑みながら言います。
じいっとエラを優しい瞳で、見つめるので
「そ、そうよね」
無理やり引きつった笑みを浮かべると、ゆっくりと
トンネルに近付きました。

  エラの左隣には、大家さん。
右隣には、シューヘイ。
その後ろには、カスミが続き、信子はその後ろ…
暗くてよく見えないので、みんな団子になって、
くっついて歩きます。
やはりヘッドライトは、トンネルの入り口辺りまでしか届かず、奥に進むにつれて、
段々と闇が濃くなってきました。
携帯を明かりの替わりにしても、すぐに消えてしまうし、バッテリーも心配です。
いよいよ懐中電灯の出番かなぁ~
そう思って、エラはカバンの中を探っていると…
シューヘイは、ピタリと立ち止まり、
「確か、懐中電灯は車の中にあるはずだ」
大家さんに向かって、声をかけました。
返事を聞く前に、シューヘイは急いで車の方へ、取って返します。
エラはちょっと心細い顔で、シューヘイの背中を見送ります。
「大丈夫!すぐに戻るから」
明るい声で叫ぶと、軽やかなフットワークで、車の方まで、走り出しました。

  シューヘイを待つ間、エラと大家さんは、トンネル中を
おそるおそるのぞいてみました。
それは、かなり古いトンネルのようで、岩肌を削った痕が
あちこちに残されています。
「この辺は…生活通路のために、掘ったんだろうね」
そう言いつつも、大家さんもはじめての経験なのか、
珍しそうに見ています。
おそらくは、削れた岩肌に、昔の人の想いがぎゅっと詰まって
いるような気がしました…

「こんなとこ…くぐり抜けるの?」
またもカスミが、おびえたような顔をします。
「いやなら…車で待ってくれてもいいのよ」
今度はあっさりと大家さんが言うので、
「それもちょっと…」
 1人で取り残されるのも、またおっかない…と、
すっかり腰がひけたような顔で、カスミは首をすくめました。
 エラは先ほどから、黙り込んでいる信子をチラリと見ると、
何を考えているのか、黙ってじぃっとトンネルの方を
見ています。
ここを本当に、通るのかぁ…と思うと、エラも正直なところ、
不安になってきました。
しばらく待っていると、カツカツカツカツ…と、
軽快な足音が近付いてきていて、パァッと明るい光が
近付いてきました。
「ごめん…時間は大丈夫なのかなぁ」
あわててカスミに目を向けると、すぐに腕時計を
掲げて、
「あと10分」
観念したように、カスミは言います。
「さぁ 行こう!」
 ハツラツとした声で、シューヘイはエラたちに、声をかけました。
「そうね、もう時間がないわね」
大家さんもうなづくと、エラの背中をぐいっと押しました。
「ふぅ~」
なぜだか、エラの緊張が伝染してきたのか、カスミは深く
息を吐きだします。
詳しいことはわからないけれども、なんだかとてつもなく
すごいことが、待ち受けている…
そんな思いが、みんなにも伝わったみたいです。
「さぁ、行きましょう」
何度目かの声かけで、エラは緊張のあまり、クスクスと
笑いがこみあげてきて、止まらなくなりました。








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