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Scene12 シンデレラはガラスの靴をはいて
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車のヘッドライトが、まるで異次元へいざなう空間のように、
トンネル内を映し出しています。
そこだけが、違う空気が充満しているようで、なんだか近付くのが怖い…
そう思うのです。
「でも…この中を歩いて来たんでしょ?」
探るように、さらにシューヘイが聞いて来るので、エラはかすかに
頭を振ると、
「わからないの…気が付いたら、あの場所にいたから」
そう言うと、シューヘイは急に思い出すような顔つきになりました。
エラと初めて出会った時のことを…
「あぁ、あの時かぁ」
思い出したのか、静かにつぶやきます。
2人の間に、静かな時が流れます。
エラにとっても、この世界へ来たのは、ほんの数か月前のことなのに、
とても遠い昔のことのように感じるのです。
あの日…12時の鐘が鳴り響いた時に、あわてて走り去ったこと。
馬車がカボチャに戻るその瞬間…
何か馬車から飛び跳ねる感覚がしたと思ったら、自分が投げ出されて、
あの路地で、うずくまっていたのです。
もしもシューヘイに拾われなければ、今頃どうなっていたことでしょう…
「しかし君は、不思議な女の子だね。本当に、遠くから来たの?」
まだ信じられない…とばかりに、シューヘイはエラを見つめます。
シューヘイは一体どこまで知っているのだろう…
そう思っていると、カサリと落ち葉を踏みしめる足音が聞こえて、
「お2人さん、申し訳ないけど、そろそろお時間なんですって」
木の陰に隠れるようにして、カスミの声が聞こえてきました。
名残惜しそうに、シューヘイはエラの肩をぎゅうっとつかむと、
後ろを振り向いたエラの肩を、すかさず抱き寄せました。
それはほんの一瞬の出来事だったので…エラには自分が何が起こったのか
わかりません。
なすがまま、両手足をダランと下げます。
まるでエラは硬直したように、コチンコチンになって
シューヘイの胸に、すかさず顔を押し当てられると、
ぐいっと右手が伸びて、エラの体を急に引き離します。
「さぁ、時間切れだ。そろそろ行こうか…」
上の方から、声が降ってきて、エラの背中をポンポンと優しく
たたくのです。
それは不思議な感覚でした。
今まで感じたことのない…
王子様と踊った時のときめきともまた、ちがうような・・・
何だかドキドキするような、暖かい気持ち。
固まっているエラの背中から、手を外すと、
シューヘイは優しく、エラの髪をなでて、
「またいつか…会えるのだろうか?」
優しくささやきます。
だけどそれには答えることもできずに、黙ってエラはうつむきます。
だってもしも元の世界に、運よく戻ったのなら、
おそらくこの世界には、もう戻って来れなくなるからです。
ここで出会た人たちや、楽しい生活とも、もうお別れ…
そして何よりも、魔法使いのおばあさんは、こう告げていたのです。
「あなたがこのトンネルを抜けたあと、すべての穴が塞がれて…
ここの人たちはおろか、あなたたちもみんな、この出来事を
忘れてしまうのよ」と。
胸の痛みを感じながら、それでもエラは、シューヘイに促される
ままに、車の方へと向かいます。
このままでいいのだろうか、
こんな終わり方でいいのだろうか、と自分に問いかけながら…
トンネル内を映し出しています。
そこだけが、違う空気が充満しているようで、なんだか近付くのが怖い…
そう思うのです。
「でも…この中を歩いて来たんでしょ?」
探るように、さらにシューヘイが聞いて来るので、エラはかすかに
頭を振ると、
「わからないの…気が付いたら、あの場所にいたから」
そう言うと、シューヘイは急に思い出すような顔つきになりました。
エラと初めて出会った時のことを…
「あぁ、あの時かぁ」
思い出したのか、静かにつぶやきます。
2人の間に、静かな時が流れます。
エラにとっても、この世界へ来たのは、ほんの数か月前のことなのに、
とても遠い昔のことのように感じるのです。
あの日…12時の鐘が鳴り響いた時に、あわてて走り去ったこと。
馬車がカボチャに戻るその瞬間…
何か馬車から飛び跳ねる感覚がしたと思ったら、自分が投げ出されて、
あの路地で、うずくまっていたのです。
もしもシューヘイに拾われなければ、今頃どうなっていたことでしょう…
「しかし君は、不思議な女の子だね。本当に、遠くから来たの?」
まだ信じられない…とばかりに、シューヘイはエラを見つめます。
シューヘイは一体どこまで知っているのだろう…
そう思っていると、カサリと落ち葉を踏みしめる足音が聞こえて、
「お2人さん、申し訳ないけど、そろそろお時間なんですって」
木の陰に隠れるようにして、カスミの声が聞こえてきました。
名残惜しそうに、シューヘイはエラの肩をぎゅうっとつかむと、
後ろを振り向いたエラの肩を、すかさず抱き寄せました。
それはほんの一瞬の出来事だったので…エラには自分が何が起こったのか
わかりません。
なすがまま、両手足をダランと下げます。
まるでエラは硬直したように、コチンコチンになって
シューヘイの胸に、すかさず顔を押し当てられると、
ぐいっと右手が伸びて、エラの体を急に引き離します。
「さぁ、時間切れだ。そろそろ行こうか…」
上の方から、声が降ってきて、エラの背中をポンポンと優しく
たたくのです。
それは不思議な感覚でした。
今まで感じたことのない…
王子様と踊った時のときめきともまた、ちがうような・・・
何だかドキドキするような、暖かい気持ち。
固まっているエラの背中から、手を外すと、
シューヘイは優しく、エラの髪をなでて、
「またいつか…会えるのだろうか?」
優しくささやきます。
だけどそれには答えることもできずに、黙ってエラはうつむきます。
だってもしも元の世界に、運よく戻ったのなら、
おそらくこの世界には、もう戻って来れなくなるからです。
ここで出会た人たちや、楽しい生活とも、もうお別れ…
そして何よりも、魔法使いのおばあさんは、こう告げていたのです。
「あなたがこのトンネルを抜けたあと、すべての穴が塞がれて…
ここの人たちはおろか、あなたたちもみんな、この出来事を
忘れてしまうのよ」と。
胸の痛みを感じながら、それでもエラは、シューヘイに促される
ままに、車の方へと向かいます。
このままでいいのだろうか、
こんな終わり方でいいのだろうか、と自分に問いかけながら…
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