上 下
358 / 370
Scene12  シンデレラはガラスの靴をはいて

  29

しおりを挟む
  困ってうつむいているエラに気付くと、
「いいのよ、いいの!
 好きなようにしたら」
 まるでエラの迷いが見えるように…大家さんは穏やかな顔で
そう言いました。
実は先ほどから、大家さんの視線を感じておりました。
もちろん実際には、こちらを向いているわけではないのに、
こちらの気配に反応しているのか…

 車がぐんぐん目的地に近付いて来るにつれ、次第にみんなの口が
重くなり、ヒソヒソ話の声さえしません…
お葬式のように静まり返っているのを察して、
シューヘイは、カーラジオをごくごく小さな音で、流しました。
スピーカーから、昔流行っていた、どこかできいたことのある
洋楽が流れて、みんなは聞くとはなしに、耳をすまします。
「なんだか不思議ね!
 こんな時間に、ドライブなんて!」
気を使っているのか、カスミは後ろを振り向くと、つとめて
明るい声で言います。
「そこって…行ったこと、あるんですか?」
思い切って、運転席のシューヘイに声をかけると、
前を向いたままシューヘイは、
「いいや、ないけど?」
やけに軽い口調で答えます。
さらに言い訳のように
「こっちの方って、なんにもないからねぇ~
 ただの山道だし、あんまり遊ぶとこもないし」
普段通りの口調で言うので、
「そうなんだぁ」
エラはただうなづきます。
そんな2人のやり取りを、大家さんは、ニヤニヤ笑いを浮かべると、
「でも大丈夫!私がナビするし」
やけに楽しそうに言うと、自信満々の顔で、シューヘイに声をかけました。
そうして大家さんは、意味ありげな視線を、エラとシューヘイに
向けると、
「あと、もう少しよ」
 今度は少し真剣な顔になって、真っ暗な山道を、じぃっと見据えました。
 
 シューヘイも大家さんから、あらかじめ聞かされているのか、
迷いのない様子で、ハンドルを握ります。
「この道をとにかくまっすぐ行ってね!
 それから、山の方へ向かって」
 時折シューヘイに指示を出すと、シューヘイは黙ってうなづきます。
なんだか特別な夜になりそうだ…
エラはワクワクしてきました。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

処理中です...