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Scene12  シンデレラはガラスの靴をはいて

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  困ってうつむいているエラに気付くと、
「いいのよ、いいの!
 好きなようにしたら」
 まるでエラの迷いが見えるように…大家さんは穏やかな顔で
そう言いました。
実は先ほどから、大家さんの視線を感じておりました。
もちろん実際には、こちらを向いているわけではないのに、
こちらの気配に反応しているのか…

 車がぐんぐん目的地に近付いて来るにつれ、次第にみんなの口が
重くなり、ヒソヒソ話の声さえしません…
お葬式のように静まり返っているのを察して、
シューヘイは、カーラジオをごくごく小さな音で、流しました。
スピーカーから、昔流行っていた、どこかできいたことのある
洋楽が流れて、みんなは聞くとはなしに、耳をすまします。
「なんだか不思議ね!
 こんな時間に、ドライブなんて!」
気を使っているのか、カスミは後ろを振り向くと、つとめて
明るい声で言います。
「そこって…行ったこと、あるんですか?」
思い切って、運転席のシューヘイに声をかけると、
前を向いたままシューヘイは、
「いいや、ないけど?」
やけに軽い口調で答えます。
さらに言い訳のように
「こっちの方って、なんにもないからねぇ~
 ただの山道だし、あんまり遊ぶとこもないし」
普段通りの口調で言うので、
「そうなんだぁ」
エラはただうなづきます。
そんな2人のやり取りを、大家さんは、ニヤニヤ笑いを浮かべると、
「でも大丈夫!私がナビするし」
やけに楽しそうに言うと、自信満々の顔で、シューヘイに声をかけました。
そうして大家さんは、意味ありげな視線を、エラとシューヘイに
向けると、
「あと、もう少しよ」
 今度は少し真剣な顔になって、真っ暗な山道を、じぃっと見据えました。
 
 シューヘイも大家さんから、あらかじめ聞かされているのか、
迷いのない様子で、ハンドルを握ります。
「この道をとにかくまっすぐ行ってね!
 それから、山の方へ向かって」
 時折シューヘイに指示を出すと、シューヘイは黙ってうなづきます。
なんだか特別な夜になりそうだ…
エラはワクワクしてきました。
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