ちょっと待ってよ、シンデレラ

Scene12 シンデレラはガラスの靴をはいて

２３

　　うながされるように、エラはドアを閉めると
「さぁ、全員揃ったわね」
あらためて、大家さんがこちらを向いて言いました。
大きなキーホルダーを取り出すと、鍵を閉めて、
「じゃあ、行きましょうか」
エラの背中に手をやって、エラと信子に声をかけました。

車はどこ？と、エラがキョロキョロすると、電信柱の向こう側に、
黒のワンボックスカーが１台、目に入りました。
後部座席の窓には、スモークガラスになっていて、人目に入らないようにと、
隠れるようにして、止まっているようでした。
運転席の側に、シューヘイが立って、こちらを見ています。
一瞬、湧きたつ気持ちに。
大家さんにうながされて、エラも車に近付いて行くと、
「ごめんなさいね、こんな夜中に」
シューヘイに向かって、声をかけました。

するとシューヘイは、すかさず後部座席側のドアに回り込むと、
「どうぞ」と開きます。
それからニッコリと笑うと…
「おやおや、こんな夜中に、どこかお出かけ？」
何も知らされてはいないのか…
おどけた表情で、シューヘイは、エラに向かって、声を掛けました。

この人は、本当に気付いているのだろうか…
ふとエラはそう思いますが、傍らで、じっと黙っている信子を見ると、
余計なことは、何一つ、口にはできません。
すかさず大家さんが、エラの背中を押すと、
「そうよ、夜中のドライブよ！」
はしゃぐように、シューヘイに向かって、ウィンクします。
「さぁ、あなたたちも、早く乗って！」
信子の肩を優しく押しました。
シューヘイの隣には、なぜかカスミが乗っていて、
「いやだぁ～ホントーに、どこかへドライブに行くみたい」
華やいだ声で、大家さんはただ、嬉しそうにしていました。