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scene 9 もう1つののシンデレラ物語

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  手元に残されたのは、ほんの10cm四方の小さな紙切れ。
それを大切そうに、カバンにしまい込むと、今さっきの手紙は
どういう意味だろう…とエラは考え込みます。

 すると、フスマの向こうから、
「エミ~!お風呂があいたわよ~」
カスミの声が、響いてきました。



 夜中の大移動は、迅速に速やかに行われ…極力目立たぬように、
人目につかないようにと…慎重に行われました。

エラが帰った後、礼美から電話をもらったメグミさんは、
すぐに信子に荷物をまとめるように、指示をしました。
いや、エラと礼美が出て行った後に、ここはキケンだから…
と、荷物をまとめてはいたのですが…
こういうのは、早いのがいい…という鉄則通り、
実行日はその日のうちに、行うことにしたのです。
年齢の割に、信子はこういう作業になれているようで…
理由も行先も聞くことなく、多くもない荷物を、
コンパクトにまとめます。
思ったよりも、スムーズに、準備はできていたのです。
礼美が到着した時には、
「さぁ、行きましょ!」
メグミさんは、車のキーを手に取ります。
「あら、手回しがいいわねぇ」
さすが、メグミさん…
メグミさんの手際のよさに、礼美はただ、感心するばかりです。

 信子はというと、もうすっかり、落ち着いたらしく、
ボストンバックとリュックサックを背中に負うと、
スタンバイして、待ちかまえています。
「荷物はこれだけ?」
礼美が聞くと…
「とりあえず、いるものはこれだけ。
 あとは、また持って行きましょ」
安全第一、とばかりにメグミさんが言います。
「じゃあ、あまり人目につかないように、気をつけましょ」
礼美は少し緊張した顔で言います。
「どこで、あの男が見ているかわからないから」
そう言うと、信子のことを心配そうに、見つめました。


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