ちょっと待ってよ、シンデレラ

scene 9 もう1つののシンデレラ物語

１３

　　とても優しい人…
礼美はそう思います。
何を言っても、怒らない人…
でも礼美は、そんなコータのことを、物足りなく思ってしまうのです。
もちろん、わかっているのです。
そんなことを思うのは、わがままだと…
それでも、たまに怒らせたくて、礼美はわざと晩御飯を作らなかったり、
コメを炊き忘れたりするのに…
コータの反応はというと、
「おやおや…」と言うと、
「しかたがないね。起きちゃったことだしね。
　出前でも取る？
　それとも、何か買ってこようか？」
　あるいは…
「たまには、外食するのもいいかもしれないね！」
と、にこやかに言うのです。
圧倒的に、あっちが大人で、気持ちの上で、嵐が起きる
こともなく、せいぜいさざ波をたてるのが精一杯なのかもしれない…
と。
それが少し悔しくて、つい反発したくなってしまうのです。

「あの人ね、決して怒らないから、ケンカにもならないのよ」
と、ついこぼすと…
「あら、のろけ？」と、メグミさんが笑い、
「仲のいいこと！あてられるわぁ～」
暑い、暑いとわざとおどけて、みせるのでした。
礼美は頭を大きく振ります。
「私って、ワガママなの」と。
自分はどうして、こうなのか…と、
ついつい罪の意識に、陥ってしまうのでした。