410 / 428
第17章 動き出した歯車
7
しおりを挟む
「帰ってくるの?」
思わず待子が聞くと、佐伯さんは頭を振る。
「今日は、ここを…引き上げることにしたの」
何だか悔しそうに、下を向いて言う。
待子は思わず「えっ」とつぶやくと、
「引っ越すの?」声を上げた。
「うん…」
「どこ?」
あんなにここに住むのを、誰よりも喜んでいたのに…
気に入っていたのではないのか、と待子はあの日の佐伯さんを思い出す。
ここを出ていきたい、と思っていた自分が、結局はまだここに
残っているというのに…
どうして、という思いが、頭の中を渦巻いている。
「残念だなぁ」
心の底から、そう思う。
「あの人…サラリーマンじゃあなかったんだってね」
思い出すように、待子が佐伯さんに向かって話しかけると
何だか佐伯さんの顔が、見たことのないくらい、さえない表情を
浮かべている。
まさか…何かまずいことでも、言ったのか?
待子はあわてて、口をつぐむ。
佐伯さんは目を細めると…
「ここにいるの…とっても楽しかったなぁ~」
何だか残念そうに、つぶやいた。
「みんなと和気あいあいしてて、とってもよかったぁ」
短い間だったけれども、佐伯さんはここにいる誰よりも…
この下宿暮らしを楽しんでいるように見えた。
誰にもなじまない、1階の外国人の2人とも、
案外気が合っているように、見えていた。
「ね、ホントにもう…あきらめちゃうの?」
思わず待子は強い口調で言う。
すると「うん」と佐伯さんは下を向くと
「なんかもう…怖くなっちゃった」
いつもの元気な佐伯さんの弱気な言葉が、ついにこぼれてきた。
「あの人ね…マイコさんの元ストーカーだったんだって!」
励ましたくて、待子は言葉を続ける。
「その人ね、たまたま佐伯さんを見かけて、
目をつけていたらしいよ」
何を話しているんだ、と待子はいぶかりつつも、
それでも話を続けないといけない…
なぜだか待子はそう思っていた。
思わず待子が聞くと、佐伯さんは頭を振る。
「今日は、ここを…引き上げることにしたの」
何だか悔しそうに、下を向いて言う。
待子は思わず「えっ」とつぶやくと、
「引っ越すの?」声を上げた。
「うん…」
「どこ?」
あんなにここに住むのを、誰よりも喜んでいたのに…
気に入っていたのではないのか、と待子はあの日の佐伯さんを思い出す。
ここを出ていきたい、と思っていた自分が、結局はまだここに
残っているというのに…
どうして、という思いが、頭の中を渦巻いている。
「残念だなぁ」
心の底から、そう思う。
「あの人…サラリーマンじゃあなかったんだってね」
思い出すように、待子が佐伯さんに向かって話しかけると
何だか佐伯さんの顔が、見たことのないくらい、さえない表情を
浮かべている。
まさか…何かまずいことでも、言ったのか?
待子はあわてて、口をつぐむ。
佐伯さんは目を細めると…
「ここにいるの…とっても楽しかったなぁ~」
何だか残念そうに、つぶやいた。
「みんなと和気あいあいしてて、とってもよかったぁ」
短い間だったけれども、佐伯さんはここにいる誰よりも…
この下宿暮らしを楽しんでいるように見えた。
誰にもなじまない、1階の外国人の2人とも、
案外気が合っているように、見えていた。
「ね、ホントにもう…あきらめちゃうの?」
思わず待子は強い口調で言う。
すると「うん」と佐伯さんは下を向くと
「なんかもう…怖くなっちゃった」
いつもの元気な佐伯さんの弱気な言葉が、ついにこぼれてきた。
「あの人ね…マイコさんの元ストーカーだったんだって!」
励ましたくて、待子は言葉を続ける。
「その人ね、たまたま佐伯さんを見かけて、
目をつけていたらしいよ」
何を話しているんだ、と待子はいぶかりつつも、
それでも話を続けないといけない…
なぜだか待子はそう思っていた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】絶対神の愛し子 ~色違いで生まれた幼子は愛を知る~
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
産まなければよかった! 母親に罵られた幼子は、傷つけられた心と体を抱えて蹲る。
髪の色を父親から、瞳の色は母親から受け継ぐ世界で、幼子は両親のどちらとも違う色で生まれた。それが不幸の始まりであり、同時に幼子が絶対者に愛される要因となる。
絶対権力と圧倒的な力を誇る神に庇護され、世界の要となる愛し子は幸せを掴む。
ハッピーエンド確定。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2023/09/25――エブリスタ、ファンタジートレンド 1位
※2023/09/13――完結
※2023/06/05――アルファポリス、女性向けHOT 38位
※2023/06/05――カクヨム、異世界ファンタジー日間 62位
※2023/06/04――小説家になろう、ハイファンタジー日間 16位
※2023/06/04――エブリスタ、ファンタジートレンド 1位
※2023/06/04――連載開始
デジャビュ
まさみ
ホラー
独り暮らしを始めた「私」は住民の騒音に悩み、不定期で同じ夢を見るようになる。
夢の中で内見に訪れたのは、前の住人が自殺した格安事故物件。
「いかがですか、お安くしておきますよ」
不動産屋の勧めを断り、廊下で繋がった別の部屋を借りたのだが……。
作者の実体験を書いたホラー短編。
百々五十六の小問集合
百々 五十六
ライト文芸
不定期に短編を上げるよ
ランキング頑張りたい!!!
作品内で、章分けが必要ないような作品は全て、ここに入れていきます。
毎日投稿頑張るのでぜひぜひ、いいね、しおり、お気に入り登録、よろしくお願いします。
真実の愛に目覚めたら男になりました!
かじはら くまこ
ライト文芸
結婚式の日に美月は新郎に男と逃げられた。
飲まなきゃやってらんないわ!
と行きつけの店で飲むところに声をかけてきたのはオカマの男だったが、、
最後はもちろんハッピーエンドです!
時々、中学生以下(含む)は読ませたくない内容ありです。
異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜
春紫苑
恋愛
運命の瞬間は早朝。
泉から伸びる手に触れたことが、レイシールの未来を大きく変えた。
引き上げられた少女は、自らを異界人であると告げ、もう帰れないのかと涙をこぼした。
彼女を還してやるために、二人は共に暮らすこととなり……。
領主代行を務めるレイシールの、目下の課題は、治水。毎年暴れる河をどうにかせねば、領地の運営が危うい。
だが、彼の抱える問題はそれだけではない。
妾腹という出自が、レイシールの人生をひどく歪なものにしていた。
喪失の過去。嵐中の彼方にある未来。二人は選んだ道の先に何を得るのか!
国道7号線家族
藤沢 南
ライト文芸
雪国出身、金なしコネなし学なしの、高卒期間工オトコと中卒准看護師オンナ。就職氷河期・平成不況をしぶとく生きぬく雪ん子コンビのタンデム人生一代記。彼らの目指す目的地はどこに。幸せはそこに。
可不可 §ボーダーライン・シンドローム§ サイコサスペンス
竹比古
ライト文芸
先生、ぼくたちは幸福だったのに、異常だったのですか?
周りの身勝手な人たちは、不幸そうなのに正常だったのですか?
世の人々から、可ではなく、不可というレッテルを貼られ、まるで鴉(カフカ)を見るように厭な顔をされる精神病患者たち。
USA帰りの青年精神科医と、その秘書が、総合病院の一角たる精神科病棟で、或いは行く先々で、ボーダーラインの向こう側にいる人々と出会う。
可ではなく、不可をつけられた人たちとどう向き合い、接するのか。
何か事情がありそうな少年秘書と、青年精神科医の一話読みきりシリーズ。
大雑把な春名と、小舅のような仁の前に現れる、今日の患者は……。
※以前、他サイトで掲載していたものです。
※一部、性描写(必要描写です)があります。苦手な方はお気を付けください。
※表紙画:フリーイラストの加工です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる