桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第14章  一時休戦

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「私たちね、先生のことが…そりゃあ大切なんですよ。
 何しろ先生は、生きる支えですからね!
 だからあなた方にも、気をつけてもらわねば」
 満足そうに言い放つと、
「いいわね!」と、待子のことを、じぃっと見つめた。
「はぁ…」
どう対応したらいいのかわからないので、途方に暮れて、ぼぅっと
した顔になる。
まるで怪し気な宗教の教祖様のようだ…
そうボンヤリと思っていた。
「それじゃあ、頼むわね」
そのオバサンは、なぜだか待子に説教するような口調で言うと、
満足気に、門を出て行った。

(何なの、一体…?)
後ろ姿を見ながら…待子はふと思う。
自分たちはたまたま、この下宿屋を借りているだけであって、大家さんの
仕事には一切かかわりあいがないはずなのに…
なんでそこまで言うのだろう…
そう思うのだけれど…
(大家さんって、もしかして…すごい人なの?)
ちょっぴり興味がわいてきた。
 たまにちょこまか出入りする人は、見かけるけれど…
もともとは、玄関は別だし、
こちらの方に、顔をのぞかせるわけでも、もちろんない。
(たいていみんな…自分のことを、知られたくないものだ)
こんな風に、言ってくる、ということは…
よっぽど大家さんのことを尊敬しているか、
それとも崇拝しているかの、どちらかだろう…と。
(それに大家さんが倒れたりしたら…この桜ハウスが
 なくなってしまう…)
 先日のサラさんの、父親の存在を思い出していた。

 もし本当に、ここがなくなったら…
みんながバラバラになってしまう…と思うと、
待子は信じられない想いでいっぱいになる。
もちろんみんなのことは…まだあんまりよく知らないけれど…
いつの間にか、とても大切な存在になっていることに、
あらためて気づいた。
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