上 下
327 / 428
第14章  一時休戦

   15

しおりを挟む
  再び杏子に背を向けて、待子が離れようとすると、
「あら、店員さん!注文は取らないの?」
 ふざけた杏子のからかう声が、飛んでくる。
「えっ」
仕方なく、待子が顔だけクルリと振り返ると、杏子をチラリと
一瞥すると、
「ご注文は?」
しごく事務的な顔をして、タン!と水の入ったコップを机に置くと、
エプロンのポケットから伝票を取り出す。

「そうだなぁ~今日は待子とご飯を…と思ってるから、
 とりあえずコーヒーね」
「ホット?アイス?」
「ホット」
「そ」
ボールペンで、サラサラと書くと、
「今日は、彼氏とデートをしないんですかぁ」
わざと大きな声で言うと、チラリと杏子の指先で光る、
リングに視線を走らせた。
「うふふ」
急に杏子が笑う。
「何よ、気持ち悪い!」
こちらを見て、ヘラヘラする杏子に、あきれたように待子が、
からかうように言う。
「なんかねぇ、アイツ…
 毎日 連絡してくるから、正直面倒くさくて、たまんないのよ」
面倒くさい、と言う割には、ちっともうっとおしそうには見えない。
「あら、そう?それはお幸せにぃ」
 他人ののろけ話、やってらんないわ、とばかりに
待子がスッと杏子に背を向ける。
「えっ、ちょっと待ってよぉ~
 待子だって、このところ、忙しそうじゃない」
あわてて杏子は、たまらん、とばかりに呼び止める。
「私は杏子の言う、忙しいのとは、違うからねぇ」
わざと偽悪的に、そう言うと
「そんなこと、ないよぉ~
 待子のこと、いいなぁと言う人、意外といるんだからねぇ」
褒めているのだか、けなしているのだか…
杏子はじぃっと、待子を見つめ返した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

朧咲夜4-朧なはなの咲いた夜-【完】

桜月真澄
ライト文芸
第三話『甦るは深き記憶の傷』の続編です。 +++ 朧咲夜 Oborosakuya 第四話 +++ 同じ気持ちで流夜と恋人同士になった咲桜。 龍生に呼ばれて向かった『白』では降渡がとんでもないことになっていて……!? 幼馴染から恋人になった笑満と遙音も、過去の事件にからめとられて、付き合いを家族に打ち明けられないでいる……。 頼が作った部活は果たして機能しているのか! ――二人の恋、禁断で終わらない?―― +++ 教師×生徒 +++ 華取咲桜 Katori Sao 特技は家事全般。 黒髪の大人びた容姿。出生に秘密を抱える。   神宮流夜 Zingu Ryuya 穏やかで優しい神宮先生。 素の顔は危ないことにくびを突っ込んでいる人。 眼鏡で素顔を隠してます。 結構頓珍漢。 夏島遙音 Natusima Haruoto 咲桜たちの一個先輩で、流夜たちと面識あり。 藤城学園の首席。 松生笑満 Matsuo Emi 咲桜、頼とは小学校からの友達。 遙音と恋人同士に。 日義頼 Hiyoshi Rai 年中寝ている一年首席。 咲桜にはやけに執着しているよう。 春芽吹雪 Kasuga Fuyuki 流夜の幼馴染の一人。 愛子の甥で、美人系な男性。 腹黒。 雲居降渡 Kumoi Furuto 流夜の幼馴染の一人。 流夜と吹雪曰く、不良探偵。 華取在義 Katori Ariyoshi 咲桜の父。男手ひとつで咲桜を育てている。 異端の刑事にして県警本部長。 春芽愛子 Kasuga Manako 在義の元部下。警視庁キャリア組。 色々と企む。先輩の在義は常に被害者。 二宮龍生 Ninomiya Ryusei 在義の相棒。 流夜たちの育ての親。 朝間夜々子 Asama Yayako 咲桜の隣の家のおねえさん。 在義の幼馴染で「在義兄さん」と慕う。 藤城学園の保健医。 宮寺琉奏 Guzi Rukana 遺伝子研究をしていて、母校である藤城学園に特別講師として呼ばれた。 後、非常勤講師となる。 諏訪山絆 Suwayama Kizuna 流夜たちの高校時代の先輩。 現在弁護士見習い。 降渡の恋人? 大和斎月 ??? +++ 2022.4.6~5.7 Sakuragi presents

天使のお仕事

志波 連
ライト文芸
神の使いとして数百年、天使の中でも特に真面目に仕えてきたと自負するルーカは、ある日重大な使命を授けられた。 「我が意思をまげて人間に伝えた愚かな者たちを呼び戻せ」 神の言葉をまげて伝えるなど、真面目なルーカには信じられないことだ。 そんなことをすれば、もはや天使ではなく堕天使と呼ばれる存在となってしまう。 神の言葉に深々と頭を下げたルーカは、人間の姿となり地上に舞い降りた。 使命を全うしようと意気込むルーカの前に、堕天使となったセントが現れる。 戦争で親を失った子供たちを助けるために手を貸してほしいと懇願するセント。 果たしてルーカは神の使命を全うできるのだろうか。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

Antique Love

奏 みくみ
ライト文芸
ゆっくりと時が進むような場所。 坂の上の古書店カフェ。 店長の麻衣と常連客の二宮は、お互いに淡い想いを抱きつつも、自分の気持ちを伝えられずにいる。 告白のきっかけを探す二宮と麻衣。二人は、相手を大事に想うからこそ、中途半端な自分を変えようと心に決めた。 乗り越えなければならない過去の恋や、捨てるべきしがらみ。 それらに向き合いながら、二宮と麻衣はゆっくりと、少しずつ前に進んでいく――。 優しい愛と人生の再生を願う、純愛ストーリー。  

café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

yolu
ライト文芸
café R のオーナー・莉子と、後輩の誘いから通い始めた盲目サラリーマン・連藤が、料理とワインで距離を縮めます。 連藤の同僚や後輩たちの恋愛模様を絡めながら、ふたりの恋愛はどう進むのか? ※小説家になろうでも連載をしている作品ですが、アルファポリスさんにて、書き直し投稿を行なっております。第1章の内容をより描写を濃く、エピソードを増やして、現在更新しております。

甘い誘惑

さつらぎ結雛
恋愛
幼馴染だった3人がある日突然イケナイ関係に… どんどん深まっていく。 こんなにも身近に甘い罠があったなんて あの日まで思いもしなかった。 3人の関係にライバルも続出。 どんどん甘い誘惑の罠にハマっていく胡桃。 一体この罠から抜け出せる事は出来るのか。 ※だいぶ性描写、R18、R15要素入ります。 自己責任でお願い致します。

蒼き翅の乙女

一花カナウ
ライト文芸
‪町に伝わる伝承と現象に翻弄される市井の人々の、優しくも悲しい物語‬。 死者がプシュケとなって戻ってくる――そんな言い伝えが残る海辺の町での物語。 記憶をなくして倒れていた少女はキースという商人の青年に拾われる。 少女は彼にサンドラという名を与えられ、 記憶が戻るまで部屋を借り、彼の店を手伝うことにする。 ところが、ドジでおっちょこちょいな性格が災いして失敗続き。 しかしそれを叱ることなく優しく接してくれるキースに サンドラは次第に彼への想いを募らせていく。 そんな彼女の想いを察するキースであったが、 受け入れることのできない理由が彼にはあって……。 ※pixivにも掲載中

処理中です...