上 下
321 / 428
第14章  一時休戦

   9

しおりを挟む
  ほんの1か月ちょっと前に、夜逃げのようにして、家をでた
ひよりちゃん家族。
心配になるのは、当然といえば当然のこと。
今は裁判所から、ひよりちゃんの父親に再三注意をなされ、
接近禁止命令が出ている、と聞いている。
 こんなまだ、幼いひよりちゃんが…怖い想いをしいられ、
実の自分の父親から逃げ回るのを、余儀なくされるとは…
どんな気持ちなのだろう、と待子はフビンに思う。

「ありがとう」
 素直に明るい声で、ひよりちゃんが言うと、
「おかげさまで、こうして元気に…外に出られるようになりました」
と、ニコニコしながら、待子に言う。
「でもね!また…忘れた頃に、来るかもしれないから…
 気を付けないと、ダメよ!」
なんだか他人事には思えなくて、眉間にキュッとしわを寄せて、
待子が言う。
「わかってるよ」
これにも、ひよりちゃんは素直にうなづく。
「どうもありがとう」
輝くように、まぶしい笑みを浮かべると、待子を見つめる。

「学校、どこに行ってるの?」
 確か今までの学校は、この下宿屋の近くだ。
ここに通うには、結構離れているので、登校も大変だろう、と
待子は気が付く。
するとひよりちゃんが「うん」とうなづくと、
「クマガイさんが、近くの学校に通えるように、話をしてくれて
 いるみたい」
嬉しそうに言う。
「でもね、やっぱり友達がたくさんいる、今までの学校へ、
 本当言うと、また通いたいのだけどね」
やっぱりサラリと、ひよりちゃんは言う。
「今は母さんが…まだダメだって言ってるの。
 あの人は…いつ何時、また押しかけて来るのか、
 わからないからだって」
そんな風に、娘に言うひよりちゃんのお母さんは…
一体どんな気持ちで、そう言うのだろう…と、
この幼い女の子のことを、同情の入り混じった、複雑な思いで
見つめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

世界が終わる前に、もう一度お別れのキスを

奏音 美都
ライト文芸
絶対に叶わぬ恋だと思ってた。世界が今日、滅びると知るまでは…… 今の私たちでは、一緒になれないことは分かってる。 諦められなくても、諦めなくちゃいけない、叶わぬ恋。 もし……もしも、世界が明日終わってしまうとしたら、 その前に、もう一度だけお別れのキスをして欲しい。

落ち込み少女

淡女
ライト文芸
「ここから飛び降りて」 僕はたった今、学校の屋上で、 一人の少女から命を絶つよう命じられていた。 悩き多き少女たちは 自らの悩みを具現化した悩み部屋を作ってしまう!? 僕はどこまで踏み込める? どこまで彼女たちの痛みに関われる? 分からない、だからこそ僕は人と交わるんだ。

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

人は見た目で、そうではないと、男が知った色々な現実 前編

三ノ宮 みさお
ライト文芸
コンビニで買いものをした男は一匹の猫を拾ってしまった。 連れて帰るつもりはなかったが、追い払ったりすることができなかったのだ。 その日、コンビニの前で男は女性から声をかけられた「猫、元気ですか」 自分のアパートで買う事は無理だろう、ふと、入ってくる前の女性の言葉を思い出し、店の外に出た男は女性に声をかけた。 猫は女のアパートに引き取られていった、いや猫だけではない、男もだ。 アパートには色々と事情のある、変わった人達が住んでいた。

【完結】めぐり逢い

カントリー
ライト文芸
八年間、ずっと母親から虐待を受けている(まつか)、その妹の(えまつ)…。 このままだと実母に殺されてしまう為、 逃げる決断をしたが…… 遠くへ逃げるはずが、 神様の手違いにより、いきなりタイムスリップ…そしてついた場所は、 なんと550年前の過去の日本だった。 勘太郎「我々の城に侵入するとは何やつだ!」 まつか「……(あっ…終わった私の人生)」 果たして、彼女らの運命はいかに?

幸せになりたい!

矢野 零時
ライト文芸
理江は、普通に会社に勤めていました。そこで、恋もし、結婚を夢みてました。そう、平凡な幸せを望んでいたのです。でも、辛いことが次から次へと起きてきます。でも、頑張っているのです。この作品、ライト文芸賞に応募しました。なにとぞ、ご一票をお願いいたします。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

オタクの青春

希望
ライト文芸
俺はどこにでもいる高校生だ。少し特徴があると言えばアニメが好きなくらいか。今時アニメ好きなんて珍らしくもないか。だとしたらぼっちなところだろうか。知り合いと呼ばれる変わり者の男はいるが、あいつのことは断じて友達など認めたくない。あんな中二病を友達だと認めたら俺まで中二病と判断される。それだけは嫌だ。 高校に入学して新しいクラスでも変わらずぼっちいる俺に家康は部活を作るぞと言って俺のてを引っ張った。また何かのアニメの影響を受けたなこいつ。俺はあきれながらも力では家康には敵わないのでおとなしく引っ張られる。するとある教室の前で止まった。文芸部か、はぁーテコとは涼宮ハルヒの憂鬱だな。リアルであの部活を作るのかよ。 「頼もうー」 嫌行きなりその掛け声で開けるって古すぎだろ。ほら中にいる人も驚いて、ないな。むしろ新しい部員が来ると思って目を輝かせてやがる。今からこいつは訳の分からない部活を作るつもりだぞ。 「今日からここをSOS団の部室とする。異論反論は認めん」 「おいまず部員の許可を取れ。それからだろう」 「恐らくその名前だと認められないから仮の名前で文芸部にしよう。それなら認めるよ」 こいつ涼宮ハルヒの憂鬱を知っているのか。あらゆるジャンルを読むタイプか。巻き込まれるのには慣れてるし、部費を踏んだ食ってそのお金で本を読むのも悪くはないな。どのみちすぐに飽きるだろうし。 こうして俺達オタクの青春が始まった。

処理中です...