桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第5章  いざ!出陣!

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「ムリしないで…なんだったら、一緒に帰ってもいいんだぞ」
 貴文がまだ、未練がましく言うのを、
「大丈夫だって!何事も…経験よぉ」
やけにあっさりと淑子が言うので、
なんだ、自分のこと…心配じゃあないのか、と待子は寂しく思っていた。
「とにかく色入りと物入りだろう?」
前もって用意していたのか…ポケットから無造作にも、突っ込んでいたので、
紙はよれよれ、封筒はしわしわになっている。
銀行の封筒を取り出した。
無言ではい、と突き出すと
「足りなくなったら、言いなさい」と言う。
「いいよぉ」
待子にも、お年玉や小遣いをためていた、いくばくかの貯金が
あったから…貴文の差し出す封筒を、受け取ることなく、押し返す。
「子供は、親に遠慮なんてしなくていい。
 とにかくまだ、揃えないといけないのだから」
遠慮して体を引く待子のポケットに、むりやり突っ込んだ。
「とにかく…キョーコちゃん?と一緒に買い物に行けばいい」

 帰りをせかす、淑子に体を押されて…まだ気になるようだけど、
貴文はしぶしぶ、部屋を出て行くと
「困ったことがあったら、いつでもいいから、電話してきなさい」
何度も何度も確かめるように、待子に向かって言った。

 淑子に引きずられるようにして、帰る父の姿を見て、
待子は安心したような、少し心細い気がした。
大家さんは、部屋の中を見回すと
「あらぁ~これは大変ね」とつぶやいた。
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