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第3章  魔女の館と、人の言う…

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  淑子の関心は、別の所にあったようだ。
「洗濯物…これで干し切れるのかしら?」
バルコニーのような洗濯場を見て、気になる様子。
それには事務的に、
「お部屋に干されてもいいと思いますよ。
 下着以外なら、窓際に干したら、よく乾くし」
かくたる感慨もないようで、サラリとフジヨシさんは答えた。

「お風呂は母屋ですって?」
気を取り直したように言う、母淑子。
さすがに細かいところまで、気になるようだ。
答え慣れているのか、
「大家さんも、9時過ぎには寝るので…9時までには、入って下さい。
 母屋の鍵も閉めてしまいますから」
淡々と話すのが聞こえる。
それならば…夜遅くなってしまったら、入れないってことか、と
待子はあらためてそう思うのだった。

「食事は?」
さらに淑子の質問は続く。
待子はぼぅっとして、ただ聞くのみだ。
「簡単なものなら、お部屋でも出来るけれど…
 共同のキッチンもあります」
フジヨシさんの言葉は、よどみもなくただ淡々と返ってくる。
それならば、本当に下宿屋さんだなぁ…と、待子はすっかり
気落ちしてしまった。
「お弁当、買ってもいいけど…高くつくしね」
うなづく淑子に、
「昼間は学食を利用したり、バイトのまかない、というのも
いいですね」
さすがの不動産屋も、このままだと商売にならない、とでも思ったのか、
淑子のご機嫌をうかがうように、のぞき込むとヘラリと笑う。
「ま、若いうちに苦労は、買ってでもしろ、と言うしね」
これ以上は突っ込むのはよくないとでも思ったのか、案外アッサリと
淑子はうなづいた。


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