桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第3章  魔女の館と、人の言う…

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  住民は一体、どうしているのだろう…と思っていると、
「みんな、仕事に行って、留守だと思うわよ」
まるで待子の心を読むように、大家さんはサラリと言う。
「ここはね、女性専用ですからねぇ。その点は、安全よ」
待子に向かって、笑顔で話しかける。
「私も、ここの母屋に住んでいるし」
自慢そうに、胸を張って言った。
すると待子の心には、ほんの少し希望が持てた。
もしここに住むのなら…この人になんでも相談しよう…
心に固く誓う、待子なのだ。

 スリッパを借りて、みしみしと鳴る階段を上がって行くと…
思いのほか、きれいに掃除されているようで、床が黒光りしている。
階段が急なのが、昔の建物のせいなのか、玉に瑕だが…
重たい荷物を持って上がるのは、きっと骨が折れるぞ、
(なるべく 持って上がらないようにしよう)
なんとなくそう思う。
もちろん、まさかここに住むつもりではないけれど…
母淑子が、楽しそうに笑いながら、何事かフジヨシさんと話して
いるのが見える。
おそらく自分がいくら言っても、もうダメだろう…
そんなあきらめのような気持ちにもなっていた。

それにしても…と、階段を上がりながら思う。
なにもよりによって、ここ…?
こんな昭和の遺物のような下宿が、今も機能しているなんて!
待子はさらに、半ば感心もしていた。
古臭いも、回り回れば、かえっておしゃれなのか?と。
でも、ちがう…自分の思う、オシャレな暮らしとは程遠い…
だけれども、かえって好奇心も刺激される。
こんなトコに住んでいるのは、一体どんな人なのだろう…と。
少し興味がわいて来たのは、事実だ。

その時階段の上がり切ったところで、
「この奥です」
フジヨシさんが淑子を促す声が聞こえてきた。

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