桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第2章  こんなはずじゃなかったアパート探し

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  なんと理想の部屋だろう…
待子はホレボレと眺めている。
ベランダから見るながめもよくて、こんな素敵な部屋は…これから先も
そうやすやすと借りれないだろうと、容易に想像できた。
すっかり黙りこくる淑子と待子。
それでも何とか場をあたためようと、不動産屋は哀れなほどに、あわてて台所へ行くと、
「これね、3つ口のコンロがあるのよ!すごいでしょ」
落胆で、ため息ばかりつく待子の側でささやいた。
その悪魔のようなささやきは、どんどん待子を翻弄し、誘惑した。
それを苦々しい顔で、母淑子は見ると、まるで呪詛のように
「学生のくせに、ゼイタクな!
 社会人になって、自分のお金で住むべきよ」
待子の背後で、ずっと念仏のように繰り返し唱えている…

 やめて!
待子は思わず、耳をふさぎたくなっていた。
 これよ、これ!
 これが憧れの一人暮らしよ!
待子は心の中で、叫んでいた。
オートロック、ワンルーム、しかもお風呂とトイレが別々で…
洗面台もついている。
駅も近いし、コンビニも近い。
小さいけれども、夢にも描いていた理想の暮らしが、そこにはあった。
 ここにしよう!
 ここがいい!
そう、強く言いたかったけれども…
チラリと淑子の顔を見ると、先ほどからムスッとして、
黙りこくっている。
 これはマズイ
 絶対、マズイ顔だぁ~と、一気にシュルシュルと、風船が空気が抜けて
しぼむように、待子の顔も、暗く沈んできた…
それを見ると、ヒョウ柄のフジヨシさんが
「ね、いいでしょ?
 とても素敵でしょ?
 こんなトコ、いいよねぇ」
なおも待子を誘惑するように、ささやきかけて来た。







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