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第1章  そして決戦の火ぶたが落とされる

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「まぁまぁまぁ…なんてことなの!」
 風野淑子は、ため息をつく。
まさか自分の娘が、親に無断で、こんなことをしでかしていたとは!
怒りとうかつであった自分に、今更のように腹をたてている。
「どういうこと?せっかく受かったのに…地元の大学には
 行かないってこと?」
 娘の待子は、黙ったまま、淑子とは目も合わせない…
まさか自分に内緒で、その大学を受けていたとは、知らなかったのだ。
いや、ウスウスは、何かを企んでいることには、気付いていた。
だが、ほんのささいなことだ…と、まったくもって気にしなかったのだ。
 思い当るのは、ある日突然、
『おばあちゃんの所へ行ってくる』
そう言って、1泊したことがある。
全く疑いもしなかったけれど…なぜおかしいと、疑わなかったのだ?

「なんで、言ってくれなかったのよ」
 母親失格だ…
顔を真っ赤にして、屈辱を感じていた。
(してやられた…)
そうも、淑子は思った。
母親の顔が、みるみる固くこわばるのを、上目遣いで待子は確認する。
 やはりね、こういう反応する、と最初から、わかってはいた。
(だから、話さなかったのよ)
と、待子は冷静な顔で、それを見ていた。
自分の判断に、誤りがなかったことを、あらためて確信した。

「受験票とか、受験料はどうしたのよ?」
それでも淑子はあきらめきれずに、淑子は聞く…
すると待子は挑戦的な目をして
「杏子に頼んだ」
あっさりと、手の打ちを明かす。
すると母親は「あぁ」と途端に、諦めた顔をした。
「あの子ね…」
 淑子はどうも、杏子には弱いのだ。
頭脳明晰、眉目秀麗、何をさせても完璧にこなす彼女のことを…
淑子は自分の理想の娘像として、唯一認めているのだ。
彼女にとって、相沢家は…完璧な家庭であり、理想の家族の形なのだ。
だから幼いころから、杏子のことは、淑子にとっては、
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半ば責めるように…母親は、娘に詰め寄るようにして聞いた…
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