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第17章 すべてはまぼろしに…
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それに今さら行っても、おそらく焼け落ちたゴーストホテルを
見るだけだ…そう秀人は思っていた。
だが、珠紀はそんなことはものともせず、
「どうしても、あそこに行きたいんです。
どうしても、行かないといけないんです」と繰り返す。
「せめて…行き方だけでも、教えてはくれませんか?」
そうしつこく食い下がっている姿に、放っておくわけにもいかない。
無駄だとは、思わないのだろうか?
なりふり構う余裕もなさそうに見えた。
やつれ切ったその顔に、目だけが異様に光を放っている。
これが、あの珠紀なのだろうか?
一体、彼女の身に、何があったのだろうか?
病気なのではなかろうか、と心配するくらいに、彼女のふっくらとした
優しい顔立ちが、すっかり面変わりしていた。
もちろん、全体的に痩せているように見えたけれど、
今迄の輝くような笑顔が姿を消して、かげりのある表情を浮かべているのだ。
その様子に、すっかり圧倒されて、気が付いたら秀人は
「わかった」とうなづいていた。
「ありがとうございます」
ホッとした顔をする珠紀に、すかさず
「それなら、連れて行ってあげる」
ポロリとそう口走っていた。
情にほだされた…ということよりも、その切実な顔に、
興味を持った…というのが、正しいのかもしれない。
珠紀は「えっ」と口ごもり
「いいんですか?」
その瞳を向けられると…
「あ、あぁ」
再びうなづく秀人だった。
ようやく珠紀の瞳に、光が灯った。
人形のように無感動だった彼女の心が、再び動いたように見える。
もともと彼女は、1人でどうにかして行こう、とあまり期待していなかったので、
「本当に…いいんですか?」
ためらうように言った。
うんと言っても、よかったのだろうか?
秀人は一瞬頭をかすめたのだが、
「いいよ」
にっこりと彼は微笑んだ。
見るだけだ…そう秀人は思っていた。
だが、珠紀はそんなことはものともせず、
「どうしても、あそこに行きたいんです。
どうしても、行かないといけないんです」と繰り返す。
「せめて…行き方だけでも、教えてはくれませんか?」
そうしつこく食い下がっている姿に、放っておくわけにもいかない。
無駄だとは、思わないのだろうか?
なりふり構う余裕もなさそうに見えた。
やつれ切ったその顔に、目だけが異様に光を放っている。
これが、あの珠紀なのだろうか?
一体、彼女の身に、何があったのだろうか?
病気なのではなかろうか、と心配するくらいに、彼女のふっくらとした
優しい顔立ちが、すっかり面変わりしていた。
もちろん、全体的に痩せているように見えたけれど、
今迄の輝くような笑顔が姿を消して、かげりのある表情を浮かべているのだ。
その様子に、すっかり圧倒されて、気が付いたら秀人は
「わかった」とうなづいていた。
「ありがとうございます」
ホッとした顔をする珠紀に、すかさず
「それなら、連れて行ってあげる」
ポロリとそう口走っていた。
情にほだされた…ということよりも、その切実な顔に、
興味を持った…というのが、正しいのかもしれない。
珠紀は「えっ」と口ごもり
「いいんですか?」
その瞳を向けられると…
「あ、あぁ」
再びうなづく秀人だった。
ようやく珠紀の瞳に、光が灯った。
人形のように無感動だった彼女の心が、再び動いたように見える。
もともと彼女は、1人でどうにかして行こう、とあまり期待していなかったので、
「本当に…いいんですか?」
ためらうように言った。
うんと言っても、よかったのだろうか?
秀人は一瞬頭をかすめたのだが、
「いいよ」
にっこりと彼は微笑んだ。
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