ラストダンスはあなたと…

daisysacky

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第17章  すべてはまぼろしに…

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「火事の原因は?」
 それでも珠紀は、玲の話すことが未だに信じられない。
「ねぇ、どうなったの?」
 さらに重ねて聞いた。
珠紀の激しさに、玲は言葉を失う。
そうして…話してもいいのだろうか、と迷っている。
「ね、どうなったの?」
揺さぶらんばかりに、顔を近づけた。
「いい?気を落ち着かせて、よーく聞いてよ」
しかたがない…と、珠紀の瞳の奥を見つめて、玲は口を開いた。

「あの火事はね、オーナーがつけた、ともっぱらの噂よ」
 まさか!
 あの人が?
珠紀は頭を激しく振る。
「なんで?」
理由はなんだ、と思う。
「保険金目当てとか、何かあったんじゃない?」
珠紀の顔が、一瞬にして、サァッと血の気が引いた。
 うそだ!
 そんなこと…
 彼はあれほど、あそこが気に入っていたのに?
珠紀にはどうしても、信じられなかった。
玲は気の毒そうに、珠紀を見つめると…
「もう、あそこのことは、忘れた方がいいわ」と言った。

 そう簡単に、忘れられるはずがない…
珠紀はグルグルと、そのことばかりを、ずぅっと考え続けた。
本当に、火事があったのか?
どのくらい焼け落ちたのか?
この目で見なければ、到底信じることができない、と珠紀は思う。
 そうだ、この目で確かめに行こう!
そう心に決めたのだった。
 そうだ、探しに行くのだ。
 彼が無事かどうか…
あそこへ、確かめに行くんだ…

 珠紀が特に固執したのは、何だったのか…
自分でも、よくわからない…
珠紀の心は、揺れていた。
あの人が、唯一自分の居場所である、あのホテルに、
火を放つわけがない!
そう激しく否定した。
玲は黙って、そんな珠紀のこと見つめた。





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