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第 16章  最初で最後の思い出を…

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「化け物め!ちょっと待て!」
 あわてて秀人が走り出す。
だがその時にはもう、武雄の姿はどこにも見えなかった。
珠紀はただ、呆然として、その様を見ているに過ぎなかった。
さらにそんな珠紀が、逃げださないようにと、玲は彼女の肩を
抱きしめていた。

「珠紀、ねぇ、一緒に帰ろう。
 迎えに来たよ」
 とめどなく涙があふれる彼女のその肩を、玲はぎゅうっと抱きしめる。
だが珠紀はダラリと両腕を垂らしたまま、
「ね、どうして?
 どうしてそっとしておいてくれなかったの?」
その腕の中で、何度も同じ言葉を繰り返す。
「彼は…私たちに、何かするつもりなんてなかったのに…」
 責める目付きで、秀人をギッとにらみつける。
「だって…アイツは、君を…」
珠紀の剣幕に、いささか驚き、たじたじとなって、苦しい言い訳をする。
「あの人…きっと、もう帰って来ないわ」
彼の走った方向に、濡れた瞳を向けた。
「えっ」
一瞬、玲は息をのみ
「珠紀、あなた…」
玲は珠紀の異変に気付く。
「もしかして…」
そうつぶやくと、珠紀は力なく、頭を振った。

 それでも気を取りなおし…荷物を取りに、屋敷に戻ると、
ほんの数分の間に、何だかすっかり雰囲気が変わっていた。
ソファーや椅子や、ローテーブルなどの家具には、シーツでおおいをかけて、
荷造りをしているのだ。
「ねぇ、どこかへ行くの?」
珠紀が山内さんに、声をかけると
「えぇ」と短く答える。
「実は…ここを引き払うことになりました」
にこやかに言う。
「どこへ?」
そんなこと、聞いていない。
なんでそんなに急に?
珠紀はひどくうろたえていた。




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