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第14章 混線

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  せっかくここを好きになった、というのに!
一瞬珠紀には、何があったのか、わからなかった。
頭のシンが、ジンジンとしびれてきた。
どうして、と声に出して叫びたい衝動に駆られる。
だが彼は、珠紀の様子に気付かないフリをして
「君には、帰る家がある」
キッパリと言い切った。
「何もこんな…誰も来たがらない、山の中まで来る必要はない」
なぜだか疲れた口調で、「もう面倒なんだ」と低い声で言った。

 この人は、どうしていつも…こんな風に言うのだろう?
さらに珠紀は思う。
まるで世捨て人のようだ…と。
だが本当に、世間を捨てたわけではないのだ。
彼には、ホテルがある。
(彼だって…もしかしたらきっと、寂しいのかもしれないわ)
何の根拠もなく、珠紀はただそう信じていた。
「もういい」
これ以上は、平行線をたどるだけだ…
彼を説得するのを、早々と珠紀はあきらめていた。
(きっと、この人のおいたちが、そうさせているのね)
そう思うと、ひどく彼のことが可哀そうに思えてきた。

「それはさておき…準備は済んだのか?」
淡々とした口調で、彼は珠紀に聞く。
「準備?」
 この人は…私の事を追い出そうとしているんだわ、と珠紀は
シンと冷え切った心で、考えていた。

 完全に、手が宙に止まっていた。
もうすっかり食欲が、消え失せていた。
どうやらそれは、彼も同様のようで…
黙って互いの顔を見つめ合う。
「あら、どうしたんですか?」
いきなり山内さんの声が、静かな部屋の中に響く。
静まり返った部屋に、ようやく音がよみがえってきた。
「お2人とも、どうされたんですか?
 まるでお通夜のようですよ」
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