ラストダンスはあなたと…

daisysacky

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第13章  今宵一夜だけは…

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  たしかにこの数日間は、絶望的に思えた時もあったけれども。
永久に、このままここから出してもらえないのか…とあきらめかけて
いたこともあったけれど…
それでもこのオバサンがいてくれたおかげで、どれほど心が
安らいだか…はかり知れない。
それを本人に伝えたいのに、どうしても…うまく言葉が出て来なかった。
ただ、頭を激しく振って、ちがうのだ…と伝えようとするけれど、
「いいのよ!無理に話さなくても」
彼女は優しく珠紀の背中を撫でさするのだった。
その手が思いのほか、とても暖かいことに、珠紀はむしろ感謝する
くらいだ。
その事実が…次第に珠紀の心を大きく揺さぶるキッカケとなった。

 それに…武雄との奇妙な同居生活も…初めは無言のプレッシャーを
感じて、怖かったのだけれども、段々と楽しくなっていたのも、
偽りのない真実だった。
なんとなく…このまま一緒に暮らしてもいいかも…と、
時折思ったこともあるのだ。
「せめてね、受け取って!
 坊ちゃんからの気持ちよ」
覚悟はしていたけれども…山内さんは、やはり誤解したまま…
目を潤ませている。
どうやらすねている、と思っているようだ。
珠紀に対しても、ひたすらに励ましのメッセージを、口にしている。
実際の所は、自分でもよくわからないのだ。
 珠紀の頭の中は、まだグチャグチャで、自分の思いも
うまく伝えられないのが、かなりもどかしく感じる。
ただ黙って、頭を振るばかり…
どうしたら、いいのだろう、と思っているところに、
 コンコン、とガラス戸をノックする音が響いてきた。



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