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第13章  今宵一夜だけは…

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「どうだったですか?」
 部屋に向かう途中、いきなり山内さんが聞く。
「どうって…」
そう聞かれても、特別なことは何もないので、珠紀はどう答えたら
いいのかわからず、困ってしまう。
「そうですねぇ」
さて何と答えよう…と、考え考えしていると…
結局は
「何もなかったです」
素直にそう言って、笑ってしまう。
「ま、確かに…何もないですよね」
珠紀の言葉に、山内さんも笑う。
他にいいようがないからだ。
「でも…」
珠紀は思い返す。
「バラが、ガラスのケースに入っていました」
雑草だらけの小さな島で、ただ1つ目に入った彩りだ。
「バラ?」
「そう…紫のバラです」
 珠紀としては、何とかうまく伝えようと思う。
「それって、造花?」
「いえ…本物の花です」
 どうやら山内さんは、知らないのだろう。
「紫のとっても立派なバラが、ガラスのケースに入って、
 置いてありました」
思い起こせば…ポツンとバラが置いてあるのは、一種異様な
光景ではあった。
「そう」
山内さんは、何事かを思い出そうとしてみるのだが、
中々手ごわい難物だ。
「お墓…なんですってね」
 ポツンポツンと、珠紀は思い出したことを、
とりあえず口にする。
するといきなり
「あれは…お墓というよりも、坊ちゃんが忘れないようにと、
 立てた目印のようなものです」
しみじみとした顔で、山内さんが軽い調子で言った。
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