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第13章  今宵一夜だけは…

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  お互いに口をつぐみ、ただ黙りこくって、岸に向かって
歩いて行く。
「あーあ」
 揶揄するように、軽い口調で、珠紀を見返す。
それもまた、想定内のことだった、と思っているのだろう。
それにしても、ようやく心が通じ合った、と思ったのに、
再びまた、ピシャリと心のドアを閉ざされてしまった。
(前途多難だなぁ)
珠紀はため息をもらす。
いつもとは違い、眼の前に相手がいるのに、
心の距離は、あまりにも遠ざかってしまったように感じた。
「あーあ」
再びため息が出る。
それにしても、こんな状況下で、パーティーだなんて、
気まずくて、とてもいられたもんじゃない… 
1人で7面相をする珠紀のことも、彼は黙って見ている。
その瞳は暗く光り、まだほかに、何か隠していることでも、ありそうだ。

 それでも珠紀は、何もきづかぬふりをして、彼の後を
ついて行く…
どっちにしろ、あともう少ししたら、会えなくなるのだから…


「あら、どうしたんですか?
 まるでお葬式のようですよ」
 2人が再び家に戻ると、早速山内さんに見つかった。
「もう少し…ゆっくりとしてくると思ったのに」
何だかとても残念そうだ。
やはり2人の仲が、うまくいくようにと、彼女が仕組んで
いたようだ。
「それは、悪かったな」
彼がボソッとそう言うと、さっさと家の中へ引っ込んだ。
その姿を見送ると、山内さんはチラリと珠紀に視線を
向ける。
「うまくいかなかったんですか?」
憐れむような目で、彼女に聞いた。
珠紀はついと目をそらすと
「何のことですか?」
わざと素知らぬ顔をする。
山内さんはニヤリと笑い、
「わかってますよ」と言う。
「坊ちゃんは…とても気まぐれですからね!
 慣れないうちは、中々難しいかもしれません」
いかにも自信ありげにそう言う。
何を期待されているのかは、おぼろげながらもわかるけれど、
だが2人の間には、まだそういった気配がこれっぽっちも
見つからないのだけれど…
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