ラストダンスはあなたと…

daisysacky

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第13章  今宵一夜だけは…

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「ばかな」
 なぜか彼はすっと目をそらすと、つぶやくように言う。
「キミは…知ってるのか?
 私のことを…連中は、化け物、と呼んでいることを」
吐き出すように、彼は言った。
「バケモノ?」
なんでそうなるの、と彼女は驚いた顔で、見返す。
だが彼は、ヒタと彼女視線を合わせると
「そうだ、化け物だ」
繰り返しそう言うと…おもむろに彼は、自分のつけている仮面を
目の前ではぎ取って見せる。

 1度は珠紀も、目にしたことがあるけれど…
こうして日中の強い光にさらされると、さらに彼の傷跡が
クッキリとそのむごたらしさを、まざまざと見せつける。
さすがの珠紀も、ハッと息をのみ、すぐに目をそらす。
「ほら、やっぱりそうだろ」
彼は仮面を手にしたまま、勝ち誇ったように横柄に
そう言う、
「やっぱり、女はみんな、そうなんだ!」
よほどつらいことでもあったのか、やけに大きな声で言った。
「すっかり…だまされるところだった」
「人聞きが悪いなぁ」
珠紀がひと言言うと、すでに岸につく直前だったので、
思い切って立ち上がり、水の中に1歩足を踏み入れる。

「あっ」

 その時船がいきなり大きく揺れて、珠紀は思わず声を上げる…
だが武雄は、再び口を閉ざすと、初めて出会った時のように、
無表情になっているのだ。
その顔を見ると、珠紀は再びひどく後悔をした。

 何か言わなければ…そう思うのに、珠紀はのどがひりついて、
何も言葉が思い浮かばない…
「あなたは、化け物なんかじゃない」
ようやく言葉を絞り出すと、ユラリと体を揺らし、青ざめた顔で
立ち上がる。
「なに」
彼が振り向くと、まともに彼女と目が合い、グラリと大きく揺れた。


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