ラストダンスはあなたと…

daisysacky

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第13章  今宵一夜だけは…

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(この人は、きっと、シャイなんだわ)
 珠紀はそう感じていた。
さらに言えば、彼はとても気分屋で、コロコロと機嫌が変わりやすい。
まともに彼に付き合っていると、かなり神経を使うけれど、
本当は優しい人なのだろう…
そう珠紀は確信していた。

「どうして?」
 再び珠紀が聞くと、かれは珠紀を振りかえり
「どうしてって…見た通りだ」
またも急に不機嫌な顔になる。
(しまった!余計なことを、言ってしまった)
すぐに気付くけれど、もうどうすることも出来ない。
ささいな言葉でも反応するので、中々難しいなぁと、彼女は思うのだった。
「私がいるじゃない!」
それでも思わず珠紀の口から、こぼれ出る。
(私、何を言ってるの?)
自分でも、どうして言ったのか理解できない。
あわてて彼の横顔を見ると、ただモクモクと、オールを握り締めていた。
「だけどキミはもう…帰るじゃないか」
ボソリと言う。

 まるで自分を置いて行く、珠紀を責めているように聞こえて、
その声が、なぜか寂しそうだということに珠紀は気付いていた。
 もちろん、それは勘違いの可能性もある。
まったく自分とはお門違いなのかもしれない。
それでも…その声にかすかに陰りがある、ということに
早い段階で気が付いた。
「あなたも…一緒に行きましょ」
嫌味に聞こえないように、話しかけると
「ばかな」
すぐさま切り捨てるように言う。
「どうして?」
なんでそこまで…彼の心は、かたくななんだろう…
珠紀はじぃっと、彼のことを見つめる。
「君は…それ、本気で言ってるのか?」:
ふいにオールを握る手を止めると、鋭い目つきで、彼女のことを
見つめた。
その瞳の鋭さに…思わず珠紀はたじろぐけれど、
「そうよ」
強い口調で言うと、彼の視線に負けないくらい、目にぐっと
力を込めた。

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