ラストダンスはあなたと…

第１３章 今宵一夜だけは…

１１

　　本当に白鳥がいるの？と思って、目を走らせるけれど、
今はまだ、いないようだ。
ちょっとガッカリするけれど、すぐに珠紀は気を取りなおした。
　小さなボートが、まるで2人が来るのを待ち構えるようにして、
目の前に係留されている。
見た感じは、何のかざりっけもない、ただの古いボートだ。
一体誰が、ここに置いたのか？
単にいつもここに置いているだけなのか？
若干気にはなるけれど、とりあえず近付いて行く。

「ね、漕いでみたい？」
　クルリと振り向くと、彼が静かな声で聞く。
珠紀は首を大きく横に振ると、
「ま、やっぱり、そうだよね？」
さして気にするわけでも、強く言うわけでもなく、あっさりと彼は
引き下がった。
「さぁ、どうぞ」
彼が先に乗り込むと、つぃっと大きく手を差し伸べる。
珠紀は一瞬、その手に触れるのをためらうけれど、
この際思い切って、彼の手のひらに、自分の手を重ねた。

　あったかい…

　思いがけないぬくもりに、珠紀の心は、思わずドキンと跳ねた。
「ちょっと揺れるから、気を付けて」
彼が珠紀に声をかけると、思い切って足を乗せる。
バランスを崩しかけて、グラリと体が揺れるけれど、
彼に手をぐぃっと引かれて、引っ張られるようにして、
あっという間に、船に乗り込んでいた。
気が付くと、彼に体重を預けている。
グラリと再び、揺れそうになると、ぐぃっと腕を引かれて
「大丈夫？」
彼は珠紀の目をのぞき込むようにして、聞いた。