ラストダンスはあなたと…

daisysacky

文字の大きさ
上 下
174 / 286
第13章  今宵一夜だけは…

   10

しおりを挟む
  だがそんな彼女の警戒にも、全く気付かぬ様子で
「いいよ!それに…その場所は、この池の真ん中にあるんだから…」
 彼はほがらかに言う。
 真ん中?
 そんな所に、何かあった?
そうやって、目をこらして見ると…池の中央辺りに、小さな小島があり
そこに、電話ボックスくらいの大きさの、透明な箱がうっすらと見えた。

 あれはなに?
 目をこらして見るけれど…遠すぎてよく見えない。
武雄は珠紀の顔を見て
「ね、どうする?」と聞いている。
珠紀は眉をキュッとひそめると、
「ついでだから…行きます」
はっきりと言い切ると、1も2もなくうなづいていた。
珍しく好奇心を刺激されたのだ。

 ボートを止めているところには、誰もいない。
「えっ、これって…勝手に乗ってもいいの?」
持ち主が誰かもわからないのに、物騒だなぁと思わず珠紀は思う。
彼は、何を言っているのか、よくわからないらしく…
キョトンとした表情で、
「もちろん!」
何を変なこと、聞くんだ?とばかりに、彼はヘラリと笑う。
珠紀にしてみれば、この池は一体何なのか知りたい…
と思うばかりで、段々とその気になってきた。
彼はそれに気づいているのかどうか、そんな彼女の様子を、
黒目勝ちの瞳で、じぃっと見つめていた。


 何だか面白いことになってきたぞ!
ガゼン元気になった珠紀は、彼の後をついて行く。
木の桟橋を渡ると、ギシギシと板がきしむ音をたてる。
キュッキュッと通るたびに、クツの音が響く。
だがそんなことを気に留める様子もなく、彼はスイスイと
前を歩いて行く。
目の前に広がるのは、小さな湖のようで、ここの水深は
どのくらいなのだろう?
ふいに珠紀は、気になっていた。
しおりを挟む

処理中です...