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第13章  今宵一夜だけは…

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「ふーん」
 彼は珠紀をじぃっと見ている。
「じゃあ、行く?」
気が抜けるほどあっさりと、珠紀に聞いた。
もちろん、聞かれたところで、自分にはよくわからないのだけれど…
それでも彼女は、コックリとうなづいた。
 とにかく、ここではなくどこか…
どこでもいいから、連れて行って欲しい、と思ったのだ。
「さ、行ってらっしゃい」
ポンと彼のお尻を、軽くたたくと…
「けっ!人使いが荒いなぁ」
言葉の割には、彼は笑いながら言った。
 ただ1人…2人の会話についていけない珠紀は、キョトンとしている。
「楽しんでらっしゃい」
山内さんがささやくと、にこやかに手を振った。

 何だかうまうまと、彼女の策略に、簡単にはまったような気がする。
だけども置いてきぼりにされまいと、珠紀はあわてて、彼の後を
追いかける。
(ここにはまだ、そんなところがあるの?)
驚きと共に、そう思う。
一体、どのくらいの広さがあるのだろう?
 まずは小さな家のポーチを離れて、バラの小路に沿って
歩いて行くと…
今度は公園のように、ベンチがある場所へと出て来る。
(これが全部、彼の土地?)
珠紀は目を丸くする。
それにしても、彼の職業は、なんなのだろう?
彼のことを知りたい…
この時初めて、珠紀はそう思った。

 可愛らしい色のついた石で飾られた、小さな門を過ぎると…
今度はバラ以外にも、ハーブや木が植えられている、スペースに
出て来る。
小さな噴水や、少し小ぶりのビニールハウス、
屋根のついた東屋や、小さな池も見えて来た。
「これで、白鳥がいれば、完璧なのにね」
残念そうに、そう言うと…
「いるよ」
聞こえていたのか、いともあっさりと彼が答えた。
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