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第12章  優しくしてよ、モンスター

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  かすかに風が吹いて、バラの花びらが、さやさやと揺れる。
「これだけ立派なお庭…見たことがありません」
珠紀はニッコリと微笑む。
男はまだ、珠紀の真意がつかめずに、戸惑っている。
素直に喜んでいいのか、それともなにかあるのか…
ひどく警戒しているようにも見える。

「勝手に入ってきたのは、私…ですもんね」
ポツリと珠紀はつぶやく。
「きっと…あなたのことも、傷つけたんですね」
そう言うと、ゆっくりと男の方へと歩み寄り、
「ごめんなさい」再び謝った。
「どうしてあやまるの?」
不思議そうに、珠紀は男を見上げる。
「私の方が、謝らないといけないのに…」
「いや、ボクが君を、ここに連れてこなければ…
 キミはみんなと一緒に、帰れてたのに」
 今日の彼は、いつもと違う。
何か山内さんから、言われたのだろうか?
思わず深読みをして、珠紀は頭を横に振ると
「こんなことがなかったら、この庭のすばらしさには
 気付かなかったと思うわ」
そう言って、ニッコリと微笑む。
照れたように、男は目をそらすと
「山内さんが、何かしようと考えているようだ」
と、ボソリと言う。
「あのオバサンって、本当に世話焼きなんですね」
いい人なんだけど…と、珠紀はニヤニヤとする。
「あなたのこと…本当に、大切に思ってるみたいよ」
からかうようにして、言って見ると、彼は怒ることなく
「そうなんだろうね」
思ったよりも素直に、うなづいた。

(どうしたの?今日はいつもとは別人みたい)
 終始にこやかな彼を見て、なぜなんだ、とついつい珠紀は
気にかかる。
そのこと自体は、問題ないけれど…
何だか居心地の悪い思いがした。
「このバラは…母が大切にしていたものなんだ」
突然男は、明後日の方を向いて、珠紀に告げる。
「ボクが外に出られなくなってから、母の心の拠り所は、
 このバラだったんだ…」
しみじみと、彼は背中を向けたまま、言った。
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