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第8章  秘密の隠し部屋

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  それから男はようやく立ち上がると、分厚いカーテンを開いた。
月が近くに見える…
やはりここは、ホテルではなさそうだ。
珠紀はベッドに腰かけたまま、窓の外を見つめた。
窓の外からは…むせかえるほどの甘い匂いが、漂ってくる。
月に照らされて、ボンヤリと、様々な色のバラの原が広がっていた。
 それは…夢のような光景だった。
何百本、何千本ものとりどりのバラが、月あかりに咲き誇り、甘いため息を
もらしている。
ここは、天国なのだろうか?
現実なのだろうか?
あまりにも幻想的な景色が広がっている。
それを目の当たりにして、あきらめかけていた、珠紀の心もちが少し
変わった。

 今、自分が置かれている状況は、確かに最悪だけれど、
この花に囲まれていたら、少しは慰められることだろう…と。
出来ることならば、間近に触れてみたいけれども…
じぃっと吸い寄せられるようにして、窓辺に近付くと、
その様子を見ていた男が、彼女に近寄る。
「すごいだろう?」
先ほどよりも、親し気に、自慢する空気がしている。
「そうですね」
ためらうことなく、素直に珠紀がうなづくと
「ここの世話…誰がしてるんですか?」
初めて間近で、男の顔を見上げた。
「誰って…ここの管理人はボクだ」
まっすぐに、珠紀の視線を受け止めると、すかさず男が答えた。
「えっ」
管理人って…ここの土地の管理人かと思っていたのに…と、
意外な思いで、珠紀は彼を振りかえった。

 彼女と目が合うと、急に男は彼女の側を離れ、
「今日から君は、ここに暮らすんだ。好きにすればいい」と言う。
だが、こんな何にもない部屋で?
困った顔で、立ちすくむ珠紀に、
「必要なものは、ここに書き出してくれ」と、机の引出を開けて、
白い紙を取り出した。
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