ラストダンスはあなたと…

daisysacky

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第8章  秘密の隠し部屋

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「まずは、武雄と呼んでくれ」
 男にいきなりそう言われ、珠紀は面食らった顔をする。
その顔を見ると面白そうに笑うと「それから…」とニヤリとする。
「このところ…ろくに話が通じる相手がいなくて、困っていたんだ。
 話し相手になってくれ」
突然何を言い出すんだ、と珠紀はドキドキとする。
まさか、とんでもないことを言い出すのではなかろうか…と、
実はビクビクしていたのだ。
 だが男が思いがけないことを言うので、
うつむいて、半分耳をふさぐ姿勢をしていた彼女は、思わず
「へっ?」と気の抜けた声をもらす。
「話し相手?」
どういうことだ?
男の顔を見る。
「そうだ」
仮面の奥の瞳が、ひたっと彼女の目を捕らえる。
「それで、いいんですか?」
思わず言うと…男はフンと鼻を鳴らし、
「ほかに君に、何が出来るというのだ?」
ややきつい口調で、男は言い返した。

 そう言われてしまうと…図星ではあるけれど、何だか悔しい
気持がする。
もっとも…一刻も早く、この部屋から脱出したい。
それには、どうしたらいいのか、とぼぅっとする。
先ほどから、男が汗をぬぐいながら、じぃっとこちらを
観察しているので、なるべくスキを見せないようにと、
珠紀の肩に、力が入る。
だがここで…何とか打ち解けておかないと、ここから逃げる算段が
できなくなるかもしれない…
珠紀は何かを探すように、部屋を見回すと、
「どうして、カーテンをしめているのですか?」
思わず男に聞いた。

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