ラストダンスはあなたと…

daisysacky

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第7章   エマージェンシー!

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「ここは…公園なんですか?」
 ようやく口に出して聞くと
「いや、ここは…私有地だ」
意外な答えが返って来る。
やはり先輩は、知っていたんだ。
玲はかすかに、息を吐いた。
「もちろん…ネットの受け売りだから、よくは知らないけれど…
 このホテルのオーナーの持ち物だっていう話だ」
そう言うと…「あっ」と小さく玲は声を上げる。
「それって…勝手に、人の庭に侵入しているってことですよね?」
 ならば悪いのは…自分たちじゃないのか、と玲は軽く
先輩をにらみつけた。

「わざと侵入したわけじゃないし…
 ホテルの中を、散策してるわけだし…」
ごまかすように、先輩は言う。
苦しい言い訳だ。
(ホントかぁ?)
 玲の中で、急に先輩に対しての、憧れの気持ちが冷めていく…
なんだ、ただの…ヤジウマじゃないか…と。
「ここってそもそも、何の噂があるんですか?」
 この際だから、聞いてやれ…と思う。
珠紀が巻き込まれたのだから、聞く権利は自分にはある、と思っていた。
「噂ってほどでもないけどねぇ」
覚悟を決め、じぃっとにらみつける玲の目に、若干ビビリながら…
先輩は少し口ごもっている。
「ただの噂だよ?
 ホントかどうか、わかんないんだよ?」
 何とか彼女のゴキゲンを取ろうと、先輩はヘラヘラと笑ってみせる。
だが、玲はごまかされない。
じぃっと視線を向けたまま、うながすように待っている。

「このホテルには…いわくつきのものがある…」
ポソリと言う。
「えっ、なんですか?」
先輩の言ってることが、よくわからない…と聞き返す。
「本当かどうか、わからないんだよ。
 ただ…ここには、野獣がいる、という噂があるんだ」
「噂?野獣?」
なんのことだ、と玲は思わず聞き返した。
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