ラストダンスはあなたと…

daisysacky

文字の大きさ
上 下
72 / 286
第5章  謎の肖像画

   16

しおりを挟む
  そうなのかぁ~と思いながらも、珠紀は階段のありかを探る。
(これなら、エレベーターに乗った方が、よかったかも?)
つい意地を張ったことを、今さら後悔する。
それでもたんねんに探していると、突然陰から、人が飛び出して来た。

「うわっ!」
すんでのところで、ぶつかりそうになり、珠紀はひどく驚く。
 少し出っ張った柱の向こうから、いきなり青い上着を着た、年配の女性が、
降ってわいたように現れたのだ。
一瞬、陰に隠れていたのか、と思ったけれども。
女の人の出て来た方向を見ると、いつの間にか、ポッカリと穴が
空いているように、暗やみが見えた。
「あっ」
思わず珠紀が声を上げると、
「なにか?」
先ほどの女性が、くるりと珠紀を振り返る。
 突然人が現れたので、まだ珠紀は、ドキドキと破裂しそうなくらい、心臓の鼓動が
聞える。
息が止まるかと思った!
軽く胸を押さえる。
何しろひと気のない場所だから、本当に他に人がいるのかしら、というくらい
周りが静まり返っていた。
だから油断していたのだ。

 すると女性は、あわてて端によけると、
「どうもすみません!」
いきなりペコリと頭を下げた。
 ブルーの上っ張りを着て、腰にはエプロンをしている。
もしかしてこの人は…清掃の人なのか、とふと気づいた。
ホテルでは、あまり見かけることはなく、チエックインとチェックアウトの時に、
現れるのだろうけれど…
なんでこんな時間にいるのだろう?
ずいぶん珍しいなぁと、珠紀は思う。
「何か、お探しですか?」
いきなりその女性が、珠紀と玲を見比べていた。

しおりを挟む

処理中です...