ラストダンスはあなたと…

第3章 新しい訪問者

４

　　さらに言えば、携帯がほぼ圏外で…使用する場所が限られる。
災害時はどうなるのだ、と思うけれど、これでスマホをいじって
仕事をサボルというのは、そもそも出来ない相談だ。
つながる場所は、ホテルのフロント辺りと、
車止めの辺り、一部廊下部分くらいなもので、客室だとほぼほぼつながらないのだ。
　それならパソコンはどうか、というと、どうやら別に、回線があるらしく、
詳しいことは、わからないけれど、仕事にはほとんど支障はないようだ。

「でもね、台風が来たり、大雨が降ったりしたら、どうなるの？
　道路が寸断されたりしたら？」
ポツンと言うと、今度は別の先輩が、考えてくれる。
それにしても、大変だ、と思うのに…（不謹慎なことだが）
何だかスペシャルな冒険の気分で、何だかワクワクするのだ。
そうして、この訪問にしても、何か事件が起こるかも…と、
いけないことだけれど、彼は期待に胸が躍るのを、
とめることはできなかった。


　　そんな彼らの思惑とはうらはらに、長いドライブの末、ようやく…
珠紀たちを乗せた車は、ホテルの前に横づけにされる。
　目の当たりに、噂のホテルがそびえたつと、
「やっぱりすごいなぁ」
秀人は思わず声をもらす。
　ヨーロッパの貴族の館を、模したようなこのホテルは…
外壁は雨で黒ずみ、（カビでもはえているのか）
アイビーのつるが、どこからか伸びて来て、這うように侵食している。
　独特の空気感と、どこか迫力のある偉容を誇っている。
　パンパン
秀人が頬を張ると、
「なぁ、駐車場はどこだ？」
思わずつぶやく。

　ホテルの見た目が重視なのか、無粋な看板のたぐいは、
一切取り払われている。
こんなので、迷ったりしないのか、と思っていると、
「こっち」
四方がクイを打たれ、遠慮がちに、小さな矢印が、赤く掲げられていた。