ラストダンスはあなたと…

daisysacky

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第2章  伝説のホテル

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  過去に1度、この部屋のカーテンを開け放そうとしたら、
「おまえは一体、何をしている!」
とてつもなく大きな声で、この女性は怒鳴られたのだ。
こんな風に、太陽の光を嫌っているのは…
(まるで吸血鬼のようだ)
この部屋に入るたびに、そう思う。

 この人に仕えるようになって、20数年…
自分の何がお気に召したのか、自分以外、他の人を一切立ち居らせたりはしない…
以前は今は亡き老執事だけが、この部屋の出入りを許されていた、と聞く…
ありがたいことだけれども、それを思うと余計に、自分の重責を
思わずにはいられない。
そのプレッシャーに、押しつぶされそうになる、彼女なのだった。


 ホテルとしては、それでも…たとえヤジウマ根性丸出しの客だとしても、
ビジネスとしては、受け入れざるを得ないのだ。
 新人は、相変わらず先輩に叱られながらも、モクモクと
ホテルマンとしての務めを果たしていた。
本当にこれでいいのか、とか
大丈夫なのか、というような疑問はおいといて、
正直 どういう噂が流れているのか、彼は興味が少なからずあった。
よくは知らないけれども、なんとなく肌では感じるのだ。
 たとえば、開かずの間だとか、
オーナーからの電話だとか、
仕事以外では、立ち入ってはいけない場所だとか…
「謎だらけだ」
そう思うけれども。
だけども先輩に、またにらまれそうなので、聞きたいと思うけれども、
それさえも我慢していた。

「ま、もうちょっと、ガマンすることね!」
フロントの先輩が、休憩時間の時に、声をかけてくれた。
「ここは特殊な場所だけれど、慣れればね、案外楽かもしれないわよ」
と、慰めてくれるのだった。

「予約のお客様、到着されます」
フロントから声がかかった。
彼はまだ、見習いなので、荷物を運ぶのを手伝わされている。
「団体さんよ!」
チョットピリピリとした緊張感が流れる。
先輩は「さぁ、仕事よ」と彼の肩を軽く押した。
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